2019年上半期の食品業界を席巻した一大トレンドが明らかになりました。雑誌『日経トレンディ』が2019年6月号で発表した「上半期ヒット食品」の選定結果は、消費者の食に対する新しい価値観とニーズの変化を鮮やかに映し出しています。栄えある大賞に輝いたのは、コンビニエンスストア大手ローソンから登場した「悪魔のおにぎり」です。このネーミングが示すように、一度食べたら病みつきになる“悪魔的”な美味しさが、空前の大ヒットを巻き起こしました。
「悪魔のおにぎり」は、2018年夏頃にSNSで話題となり、ローソンがその反響の大きさに注目し、異例のスピードで同年10月に商品化へと踏み切りました。その結果、発売からわずか半年で、累計販売数は2019年4月中旬時点で2,900万個を突破するという驚異的な記録を達成したのです。ローソンによると、これは20年間もの長きにわたり売り上げトップに君臨し続けたツナマヨおにぎりの販売数を抜き去ったことを意味しており、その衝撃は計り知れないものでしょう。SNSでは、「本当に悪魔的な美味しさ」「もうこれしか食べられない」といった、その中毒性の高さを称賛する声が溢れていました。
上半期の食卓を彩った多様なヒット商品
上半期には「悪魔のおにぎり」以外にも、多様なニーズに応えるヒット商品が数多く誕生しています。例えば、吉野家の「超特盛」(780円)は、「肉を心置きなく食べたい」という一部のコアなファンの欲望にストレートに応えた商品で、その肉量は大盛の2倍、カロリーは1,000キロカロリー超というボリュームです。健康志向とは真逆のベクトルながら、発売からわずか1カ月で100万食を突破する想定外の大ヒットとなり、ボリュームを求める層の存在感を改めて示しました。
また、冷凍食品の進化と市場開拓も見逃せません。セブン-イレブン・ジャパンの冷凍カップ米飯は、これまでの家庭利用が中心だった冷凍食品の概念を打ち破り、オフィスでのランチなど「外」での即食ニーズに応える手軽さが評価され、新たな市場を切り開きました。同様に、成城石井のレンジアップ総菜、無印良品の冷凍食品も人気を博しており、特に無印良品の「素材を生かした世界のごはん」シリーズは、化学調味料不使用や透明パッケージを採用することで、冷凍食品への不安を払拭し、30~40代の主婦層の心を見事に掴んでいます。
定番商品では、誰もが知る日清食品の超ロングセラー「チキンラーメン」が、2019年3月1日に売上高の最高記録を更新するという快挙を成し遂げました。この売上増は、前年度の過去最高記録を6%程度上回る見込みで、背景にはNHKの連続テレビ小説『まんぷく』の影響が大きく、ドラマを見て「食べたい」と思った消費者が多かったことが要因の一つと推測されています。時代を超えて愛される商品が、メディアの力で再び注目を集めた好例だと言えるでしょう。
さらに、健康と時短ブームの追い風を受けた徳島産業の「たっぷりたまねぎポン酢400ml」は、シンプルなパッケージながら、たっぷりのタマネギが魅力となり、知る人ぞ知るヒットとなりました。2018年9月の発売から早くも累計出荷数約140万本を達成しており、素材の良さと分かりやすさが消費者に響いた結果でしょう。このほかにも、ファミリーマートの「スフレ・プリン」といった、異なる食感を掛け合わせたハイブリッドスイーツや、低糖質ブームでカリフラワーライスを冷凍食品化したイオンの「トップバリュ お米のかわりに食べるカリフラワー」シリーズも、爆発的なヒットを記録しています。
食材のトレンドとしては、イワシ缶が主役に躍り出ました。2017年12月にサバ缶がツナ缶の市場規模を逆転する社会現象が起こり、サバ缶が品薄になった際の代用品としてイワシ缶が伸長していましたが、2019年上半期には、イワシがテレビ番組で「体に一番いい寿司ネタ」として取り上げられたこともあり、一躍ブームの中心となったようです。外食産業では、ジョリーパスタの「まるごと!焼きカマンベールのカルボナーラ」が、カマンベールチーズを丸ごと使用した豪快な見た目で話題となり、人気トップの定番メニューの5倍売れる日もあるほどの人気ぶりでした。
令和は「即食」と「栄養」に注目の時代へ
いよいよ幕を開けた令和の時代。下半期、そしてこれからを占う「令和ヒット予測」からは、現代人のライフスタイルに深く根ざした新たなトレンドの兆しが見えてきます。特に注目すべきは、「即食」と「完全栄養食」をキーワードとした商品群でしょう。
日清食品の「All-in PASTA」は、1日に必要なすべての栄養量の3分の1を配合した完全栄養食のパスタです。スタートアップ企業が牽引してきたこの市場に、食品大手が満を持して参入したことの証であり、2019年3月27日に自社サイトとLOHACOで発売したところ、なんと2カ月分の在庫がわずか約5時間で完売したというから驚きです。忙しい現代人にとって、手軽に栄養バランスを整えられる完全栄養食への関心は非常に高いと断言できます。
即食性の追求では、日清食品チルドの「日清のそのまんま麺」が革新的です。従来の冷やし麺は「ゆでる」か、せめて流水で「ほぐす」作業が必要でしたが、この商品はタレやつゆをかけるだけで文字通り「そのまんま」食べられるという、調理の簡単さを極限まで追求した設計となっています。この「即食チルド麺」市場は、2019年4月1日の販売開始を皮切りに、さらに活性化することが見込まれております。
また、コンビニスイーツの進化も留まるところを知りません。ローソンの「バスチー バスク風チーズケーキ」は、2018年に専門店も登場し盛り上がりを見せたバスク風チーズケーキをいち早く商品化しました。濃厚な味と独特の食感が人気を集め、2019年3月の発売から3日目には100万個を達成し、かつてのブームを牽引した「プレミアムロールケーキ」を超える初速を叩き出しました。
健康志向の潮流のなか、タンパク質を手軽に補給できる「間食グルメ」もネクストブームの予感です。サラダチキンの後釜候補としてサラダフィッシュが登場しており、セブン-イレブンが全国展開を開始するなど、各社が力を入れています。さらに、ローソンが4月に投入した、殻をむかずに済む「ボイルドエッグス」や、植物性タンパク質を手軽に補給できる相模屋食料の「とうふラテ」など、定期的なタンパク質補給を望む層に向けた商品戦略が本格化していると言えるでしょう。
外食分野では「お一人様」向けの業態が伸長しており、その代表例がダイニングイノベーションの「焼肉ライク」です。2018年8月のオープン以来、新橋店では計画比130%超で推移し、客足が絶えません。5年で300店という積極的な出店計画が示すように、今後「一人焼肉」という新たな外食の楽しみ方が定着していくことでしょう。私見ですが、これらのヒット予測から見えてくるのは、「タイパ(タイムパフォーマンス)」を重視し、いかに手間なく、いかに効率よく、そしていかに心を満たすかという、現代人の切実な願いを食品メーカーや外食産業が見事に捉え始めているという事実にほかなりません。
コメント