かつての巨大帝国モンゴルが、今、デジタル領域で再び世界を席巻しようとしています。首都ウランバートルでは、人工知能(AI)やフィンテックといった最先端分野でスタートアップ企業が次々と誕生しています。その原動力となっているのは、海外のトップ大学やグローバル企業で研鑽を積んだ「帰国組」の若きエリートたちです。彼らは、母国特有の濃密な人間関係と高い技術力を武器に、モンゴルを「技術先進国」へと押し上げようとしています。
2019年7月下旬、ウランバートルにはFacebookやMicrosoftに所属する世界最高峰のAI技術者が集結しました。開催されたディープラーニング(深層学習)のセミナーでは、モンゴル出身でFacebook AI研究所のサインバヤル氏も登壇しました。彼はGoogleが発表した革新的な自然言語処理(人間が日常使う言葉をコンピュータに処理させる技術)の論文にも貢献する、世界が注目するエンジニアです。SNS上でも「モンゴルの数学力とITの融合は恐ろしいポテンシャルを秘めている」と驚きの声が上がっています。
「東大・GAFA人脈」が支える驚異の開発スピード
このセミナーを主催したのは、電通のAI子会社「電通データアーティストモンゴル(DDAM)」です。代表のアグチバヤル氏は東京大学への留学経験を持ち、世界中に広がる「モンゴル人ネットワーク」をフル活用しています。モンゴルは人口の半分が首都に集中し、学校制度も一貫制が多いため、幼少期からの絆が非常に強いのが特徴です。この「狭く、深い」信頼関係が、留学後も互いを支え合い、最先端の知見を母国へ還流させる強力なエコシステム(生態系)を生み出しています。
DDAMは2018年8月の設立以来、AIによるテレビ視聴率予測システムなどの開発拠点として急成長を遂げました。2019年内には社員を100名規模に増員する計画で、人材育成にも余念がありません。特筆すべきは、モンゴルの圧倒的な「数学力」です。国際数学オリンピックでは2019年に世界26位まで急上昇し、フランスなどの先進国と肩を並べています。この論理的思考の素養こそが、IT産業を支える最強の資源となっているのです。
スマホが変える生活、フィンテックで「ユニコーン」を目指す
ITインフラの整備も目覚ましく、2016年の4G(LTE)導入を機に市場が爆発しました。2018年末時点でスマホ普及率は1人あたり約1.4台に達しています。この波を捉えたのが、フィンテック企業のアンドグローバルです。同社のアプリ「レンドMN」は、AIによるスコアリング技術(個人の信用度を数値化する技術)を駆使し、わずか3分で無担保融資を可能にしました。伝統的な質屋に頼っていた市民の生活を、テクノロジーが一変させています。
同社はウランバートルに開発拠点を置きつつ、フィリピンやメキシコなど世界市場を見据えています。最高投資責任者のホスエルディン氏は「先進国並みの技術を低コストで実現できる」と自信をのぞかせます。私自身の見解としても、資源依存型の経済から脱却を図るモンゴルにとって、場所を選ばないIT産業はまさに「命綱」であり、彼らのハングリー精神と数学的才能の掛け合わせは、近いうちにモンゴル発のユニコーン企業を生むに違いありません。
行政の支援と、立ちはだかる「政治との距離」という壁
行政側もこの動きを後押ししています。2018年には起業支援施設「ハブイノベーションセンター」を開設し、スタートアップの育成を加速させています。しかし、課題も無視できません。起業家たちの間では、不透明な選考プロセスや賄賂といった、政治とビジネスが近すぎる社会構造への懸念が根強く残っています。政府は2020年度に向けて地方への支援拡大も掲げていますが、真の「IT帝国」へと飛躍するためには、透明性の高いビジネス環境の構築が不可欠でしょう。
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