2020年の東京五輪開幕までカウントダウンが始まる中、スポーツ界に激震が走るニュースが飛び込んできました。2019年10月17日、国際オリンピック委員会(IOC)が、東京で開催予定だったマラソンと競歩の会場を、猛暑対策として北海道札幌市へ移転する検討に入ったと発表したのです。これまでも開始時間を早めるなどの対策は議論されてきましたが、この時期の開催地変更という異例の提案に、関係者の間では驚きと戸惑いが隠せません。
SNS上では「チケットもコース対策も進んでいたのに、今さら変更なんてありえるのか」といったファンの困惑や、「選手の命を守るためには英断だ」という賛成意見が入り乱れ、瞬く間にトレンドを席巻しています。準備が進んでいた東京都や組織委員会にとっても、寝耳に水の事態と言えるでしょう。しかし、この強硬とも言える方針転換の背景には、直前にカタールで開催された「世界陸上ドーハ大会」での過酷すぎる現実が色濃く影を落としているようです。
「地獄のレース」となったドーハ世界陸上が突きつけた教訓
2019年9月末から10月初旬にかけて行われたドーハ世界陸上では、深夜のスタートにもかかわらず、気温32.7度、湿度73.3%という殺人的な気象条件で競技が強行されました。その結果、女子マラソンでは出場選手の約4割にあたる28名が途中棄権するという、まさに惨劇とも呼べる事態を招いたのです。選手たちはレース後も数日間にわたって微熱が続くなど、身体への深刻なダメージが報告されており、指導者からも悲痛な声が上がっています。
こうした状況を重く見たIOCは、掲げている「アスリートファースト(選手第一主義)」という理念が問われる事態だと危機感を強めました。アスリートファーストとは、競技の主役である選手の健康やパフォーマンスを最優先に考える運営指針のことです。トーマス・バッハ会長は、今回の提案がIOCの抱く懸念の深さを象徴するものだと強調しており、もはや東京の暑さは無視できないレベルに達していると判断したのでしょう。
現場の戸惑いと「暑さ」を武器にしていた日本勢の誤算
しかし、この決定が現場に与える影響は計り知れません。2019年9月15日には、五輪代表選考会である「マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)」が東京のコースで行われ、すでに多額の費用と時間をかけて準備が進められてきました。現場のコーチ陣からは、日本選手が得意とする「暑さの中での粘り」を勝機と考えていただけに、気象条件が大きく変わる札幌への変更に当惑する意見も噴出しています。
編集者としての私見ですが、選手の安全が第一であることは言うまでもありません。しかし、開催1年前を切ったこのタイミングでの大転換は、運営の信頼性を揺るがすだけでなく、沿道での応援を楽しみにしていた市民やボランティアの熱意を削ぐリスクも孕んでいます。五輪という巨大な歯車をどう再調整していくのか。IOC、東京都、そして選手たちの三者が納得できる着地点を見出すための、極めて困難な調整がこれから始まることになるでしょう。
コメント