2019年に入り、新興国通貨の中でもタイの通貨「バーツ」が異例の強さを見せています。国際協力銀行(JBIC)バンコク駐在員事務所の首席駐在員である朽木隆弘氏は、このバーツ高の背景にタイの極めて安定したマクロ経済動向があると言及しました。マクロ経済とは、国全体の経済水準や成長率、物価などを広い視点で捉える指標のことですが、タイは現在、経常収支が大幅な黒字を維持しており、世界中の投資家から「安全な資金の避難先」として選ばれているのです。
SNS上では、タイ旅行を計画している層から「両替レートが悪くて驚いた」といった嘆き節が聞こえる一方で、投資家の間ではバーツの堅調さを評価する声が目立っています。こうした状況を受け、タイ中央銀行は投機的な資金流入を抑えるための規制を強化しました。さらに、2019年8月には政策金利を1.75%から1.5%へと引き下げる決断を下しています。金利を下げることでバーツを売る動きを誘発し、通貨高に歯止めをかけようという狙いがあるのでしょう。
家計債務の拡大と利下げのジレンマ
しかし、利下げによる通貨抑制の効果については、専門家の間でも不透明であるとの見方が強いのが現状です。その大きな足かせとなっているのが、タイ国内で深刻化している「家計債務」の問題に他なりません。家計債務とは、個人や家庭が抱えるローンや借金の総額を指しますが、現在のタイではこの数字が国内総生産(GDP)比で78.7%という高水準に達しています。これ以上の利下げは、借金をさらに増やしかねないというリスクを孕んでいるのです。
今回の事態を編集者の視点で捉えると、タイ経済は非常に難しい舵取りを迫られていると感じます。バーツ高は輸出大国であるタイにとって諸刃の剣であり、特に現地を製造拠点とする日系企業の収益を圧迫する要因になりかねません。2019年10月28日現在、さらなる金利操作が家計の破綻を招く恐れがある以上、中銀が打てる手立ては限られています。日本企業は、このまま高止まりする可能性を見据えた、より強固な経営戦略の構築が求められるのではないでしょうか。
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