ふっくらとした頬に、純真無垢な瞳。両手に白い采配を携え、今にも楽しげに跳ね起きそうな幼子の姿は、見る者の心を一瞬で温かく包み込みます。この愛らしい人形は、秋篠宮さまのご成婚という慶事に際して献上された特別な逸品です。鮮やかな緋縮緬の衣装には、長寿や繁栄を象徴する松竹梅や鳳凰の刺繍が施され、「夢の御子」という風雅な名が付けられました。
制作者は、京都で250年以上の歴史を誇る有職御人形司の十二代目、伊東久重氏です。「有職御人形司(ゆうそくおにんぎょうつかさ)」とは、古来より朝廷や公家に仕え、儀式や典礼に基づいた正統な人形制作を担ってきた特別な職人を指します。江戸時代中期から一子相伝で守り抜かれてきたその技は、まさに日本の宝とも呼べる格調高い伝統文化そのものと言えるでしょう。
SNS上では、その透き通るような肌の美しさに「まるでお餅のよう」「見ているだけで幸せな気持ちになる」といった感動の声が広がっています。現代のスピード感あふれる時代において、1体の人形を仕上げるために1年という歳月を費やすストイックな姿勢は、効率を重視する私たちに、真の価値とは何かを静かに問いかけているようにも感じられます。
30年の歳月が育む「胡粉」の輝きと職人の魂
御所人形の最大の特徴は、3頭身の愛くるしいフォルムと、内側から光を放つような白い肌にあります。驚くべきことに、その材料となる桐の木は30年もの歳月をかけて乾燥させ、じっくりと寝かされたものが使われます。土台となる木彫りの工程を経て、そこから「胡粉(ごふん)」と呼ばれる、牡蠣の殻などを粉末にした顔料を塗り重ねていく作業が始まります。
この胡粉を塗っては乾かす工程を30回ほど繰り返し、さらに表面を磨き上げた後、細かな表情を刻んでから再び20回ほど薄く塗り重ねていきます。この際、職人が自らの息を吹きかけながら布で拭い上げることで、独特の光沢が生まれるのです。私は、この「息を吹き込む」という行為こそが、無機質な木塊に魂を宿らせる神聖な儀式のように思えてなりません。
2019年10月23日現在、伊東氏は75歳を迎えましたが、その創作意欲は衰えるどころか、さらなる高みを目指しています。20歳で父を亡くし、祖父の厳しい指導のもとで「体で覚える」まで叩き込まれた職人の勘。気温や湿度で変化する繊細な素材を操るその指先は、言葉を超えた日本の美学を体現しています。文化の継承がいかに尊いものであるかを、私たちは再認識すべきでしょう。
伝統の重みを背負いながらも、常に「うきうきと幸せな気持ちになる姿」を追い求める久重氏。そんな彼の集大成ともいえる個展が、2020年03月05日から2020年03月15日まで、東京・銀座の和光で開催される予定です。皇室に愛され、時代を超えて人々を魅了し続ける「夢の御子」たちの輝きを、ぜひその目で確かめてみてはいかがでしょうか。
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