1970年代後半、日本では「化粧品公害」という言葉が社会を騒がせていました。2019年11月10日の「私の履歴書」にて、ファンケル会長の池森賢二氏が語った起業のきっかけは、あまりにも身近で切実なものでした。久しぶりに顔を合わせた愛する妻の肌が、見るも無残な吹き出物に覆われていたのです。かつては化粧が上手だった彼女を襲った悲劇に、池森氏は大きな衝撃を受けました。
SNSではこのエピソードに対し、「奥様への愛が世界を変えた」「正義感が強すぎる」といった感動の声が数多く寄せられています。当時の状況を調べると、クリーニング業を営んでいた池森氏の耳には、顧客からも同様の肌トラブルに関する悩みが届いていました。彼は週刊誌を手に皮膚科を訪ね、化粧品が肌を健やかにするどころか、逆に壊している現状を知ることになるのです。
衝撃の事実!「3年もたせる」ための添加物が肌を蝕んでいた
池森氏が専門家に聞いた話では、皮膚科に通う患者の約7割が化粧品による「接触性皮膚炎」に苦しんでいたといいます。接触性皮膚炎とは、特定の物質が肌に触れることで赤みや痒みが引き起こされる、いわゆる「かぶれ」の状態です。化粧品が売れるほど皮膚科が潤うという、まさに本末転倒な構図を目の当たりにし、池森氏は激しい憤りを感じずにはいられませんでした。
なぜ肌に悪いものが入っているのか。その答えは、化粧品の「腐敗」を防ぐためでした。通常、化粧品は栄養分が豊富なため傷みやすく、業界の常識では防腐剤や酸化防止剤、殺菌剤を添加して「3年間」品質を保つのが当たり前だったのです。しかし、添加物を一切入れなければ1ヶ月は品質が保てると聞いた池森氏は、画期的な解決策を思いつきました。
夢より現実!「1ヶ月使い切り」の小さな容器に込めた執念
池森氏のアイデアは、「1ヶ月で使い切れる小さな容器に密封する」という極めてシンプルなものでした。しかし、技術者からは「化粧品は夢を売るもの。薬のような容器では誰も買わない」と猛反対を受けます。それでも彼は諦めませんでした。試作品を妻に使わせると、あんなに酷かった肌荒れが嘘のように回復したのです。この成功体験が、彼の正義感に再び火をつけました。
ここで注目すべきは、池森氏が「売ること」よりも「救うこと」を優先した点です。当時の営業スタイルは過酷で、1日100軒の飛び込み営業を行っても、門前払いや塩をまかれるといった冷遇が続きました。しかし彼は、自社製品を売る以上に「化粧品の使いすぎは肌を荒らす」という啓蒙活動に力を注ぎます。この顧客に寄り添う姿勢こそが、現代のファンケルの信頼に繋がっていると言えるでしょう。
手作りの「素肌美ニュース」が切り拓いた新しいビジネスの形
試行錯誤の末、池森氏は独自の集客術にたどり着きました。それが手作りの新聞風チラシ「素肌美ニュース」です。専門知識や世の中の間違った常識、そして現場で聞いた女性のリアルな悩みを凝縮したこのチラシは、単なる宣伝媒体を超えた情報源となりました。SNSがなかった2019年11月10日当時を振り返る記述からも、このアナログな手法がいかに革新的だったかが分かります。
私は、池森氏のこの行動力こそが編集者やクリエイターが見習うべき「ユーザーファースト」の原点だと確信しています。市場のニーズを探るのではなく、目の前の一人を救いたいという純粋な想いが、結果として巨大な市場を生み出したのです。不安よりも興奮が勝るという彼の情熱は、新しい価値を創造しようとする全てのビジネスパーソンにとって、時代を超えた教科書となるはずです。
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