台風19号が直撃した武蔵小杉の裏側|5G特需を支える町工場の危機と再起への祈り

2019年10月12日に東日本を襲った台風19号は、各地に癒えることのない深い爪痕を残しました。福島県郡山市では電子部品工場が操業停止に追い込まれるなど、日本の屋台骨である製造業への打撃が深刻化しています。再開発によってタワーマンションが立ち並ぶJR武蔵小杉駅周辺も、かつては町工場が密集する「ものづくりの聖地」でした。華やかな都市開発が進む影で、今なお世界を支える技術を守り続ける中小企業の切実な現状を、私は現地からお伝えします。

2019年10月17日の午前、武蔵小杉駅から多摩川方面へ歩を進めると、そこには変わり果てた光景が広がっていました。浸水被害に見舞われた地元リサイクル業者では、従業員の方々が総出で泥の書き出し作業に追われています。事務所に流れ込んだ汚泥との戦いは、発災から5日が経過してもなお終わりが見えません。ある男性社員の方は、目の前の道路を指差しながら「ここが浸水の境界線だった」と、悔しさを滲ませる表情で語ってくださいました。

被災エリアをさらに東へ進むと、住宅街や公園には泥にまみれた家具が山積みとなり、「被災ごみ」という痛々しい貼り紙が目立ちます。SNS上でも「武蔵小杉の被害はタワマンだけではない」「町工場の存続が心配だ」といった声が相次ぎ、地域経済の停滞を危惧する投稿が拡散されています。私たちは、洗練された都市のイメージに隠された、インフラを支える現場の苦境にこそ目を向けるべきではないでしょうか。

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5G時代の基盤を支える職人魂と、立ちはだかる水害の壁

鉄道や医療機器向けに欠かせない「鍍金(めっき)」技術を誇る戸川鍍金は、この地域に残る最後の砦です。メッキとは、金属の表面に別の金属の薄い膜を張る技術で、腐食を防いだり電気を通しやすくしたりするために不可欠な工程を指します。かつては近隣に同業者が10社ほど存在していましたが、海外との価格競争に晒され、現在は同社のみが伝統を守り続けています。しかし、今回の水害によって工場の心臓部である電気設備が冠水してしまいました。

戸川昌俊氏は「水処理設備の故障により、稼働率は5割まで落ち込んだ」と肩を落とします。現在は次世代通信規格「5G」の普及に伴う部品需要、いわゆる「特需」の真っ只中にありますが、納期遵守の目処は立っていません。精密な加工を要する情報通信部品の供給が滞れば、日本のDX化の遅れにも繋がりかねない事態です。資金繰りや復旧の見通しがつかないという悲痛な叫びは、まさに日本の中小企業が直面している構造的な脆さを露呈しています。

私は、こうした高度な技術を持つ町工場が一度途絶えてしまえば、二度と再生はできないと考えています。行政による迅速な公的支援はもちろんのこと、私たち消費者も、目に見える煌びやかな街並みだけでなく、それらを裏側で支える「職人の手」に敬意を払い、関心を持ち続けることが復旧への第一歩になるでしょう。一刻も早く、多摩川沿いに工場の機械音が響き渡る日常が戻ることを切に願わずにはいられません。

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