2016年12月21日、政府は高速増殖炉原型炉「もんじゅ」の廃炉を正式に決定しました。この歴史的な決断の裏側では、国と地元・福井県の間で凄まじい駆け引きが繰り広げられていたことをご存じでしょうか。かつて「夢の原子炉」と期待されたもんじゅですが、その存在は単なる科学技術の粋を超え、地域の未来を左右する強力な交渉材料、いわゆる「もんじゅカード」として機能してきたのです。
廃炉決定直前の2016年12月19日、当時の松野博一文部科学大臣から方針を伝えられた西川一誠福井県知事は「到底受け入れられない」と猛反発しました。しかし、その後の展開は驚くほどスムーズでした。実は、政府は水面下で同年9月から代替となる地域振興策の協議を始めていたのです。SNSでは「反対はポーズだったのか」という厳しい声も上がりましたが、これは地元が実利を最大限に引き出すための高度な政治的技術だったと言えるでしょう。
新幹線延伸を実現させた「もんじゅカード」の威力
福井県が国から引き出した最大の成果、それこそが北陸新幹線の敦賀延伸です。2000年代以降、県は新幹線の着工が決まらなければ、もんじゅの運転再開や原子力政策に協力しないという姿勢を貫いてきました。2010年4月には、運転再開を目前に控えた知事が、新幹線の早期建設を求める要望書を大臣に手渡しています。まさに「原子力とインフラ整備」をセットにした、地方自治体による執念の交渉術が実を結んだ形となりました。
ここで「高速増殖炉」という専門用語を整理しておきましょう。これは、発電しながら消費した以上の燃料(プルトニウム)を生み出す、魔法のような原子炉のことです。しかし、ナトリウム漏れなどの事故が相次ぎ、実用化は困難を極めました。私は、技術的な課題が山積する中で、この巨大プロジェクトが「地域振興の道具」としてのみ延命されてきた側面は否定できないと考えています。科学の進歩が政治の道具にすり替わる危うさを感じざるを得ません。
福井県が青森県ほど激しい抵抗を見せなかった背景には、県内に13基もの商業用原発が存在していたという余裕もありました。特定の施設に財政を依存しきっていない構造が、冷静な損得勘定を可能にしたのでしょう。文部科学省は2017年12月、廃炉後も交付金を増額する方針を示しました。原子力政策がいかに特別な支援体制に支えられているか、その特異性が浮き彫りになったと言えます。
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