宮城県仙台市に暖簾を掲げる「仙台伊沢家勝山酒造」が、世界の日本酒シーンを揺るがす快挙を成し遂げました。2019年7月9日、同蔵はイギリスとフランスという、食文化の異なる二つの国で同時に最高賞を受賞するという異例の事態を迎えたのです。異なる評価基準を持つ両国で同時に頂点に立つことは、酒造業界でも極めて稀な出来事といえるでしょう。
フランスのソムリエたちが審査する「Kura Master」において、出品された720銘柄の頂点に輝いたのが、力強い骨格を持つ「勝山 純米大吟醸 伝」です。一方、イギリスで開催された世界最大級のワイン品評会「IWC」では、1500銘柄の中から「勝山 純米吟醸 献」が最優秀賞の「チャンピオン・サケ」に選ばれました。
このニュースが流れると、SNS上では「地元の誇りだ」「格式高いボトルデザインに負けない実力」といった驚きと称賛の声が相次ぎました。しかし、この華々しい成功の裏側には、かつての経営危機を乗り越えるための「解体的な出直し」があったのです。元禄時代から330年以上続く老舗が選んだ道は、決して平坦なものではありませんでした。
1990年代後半、多角経営の影で本業の酒造りは赤字が続き、売上は最盛期の半分にまで落ち込んでいました。そこで伊沢泰平会長が断行したのが、徹底した「選択と集中」です。約30種類あった銘柄をわずか4つにまで絞り込み、売上の柱だった安価な「本醸造」の製造を完全に廃止するという、まさに背水の陣ともいえる決断を下したのです。
ここで専門用語を解説しますと、彼らが決別した「本醸造酒」とは、醸造アルコールを添加して味を整えたお酒のことです。対して、彼らが特化した「純米酒」は、米と米麹、水だけで造られるお酒を指します。勝山酒造は、あえてコストのかかる純米酒のみに絞ることで、高級ブランドとしての地位を確立する戦略に打って出たわけですね。
さらに驚くべきは、伝統的な「職人の勘」をデータ管理へと刷新した点でしょう。東京農業大学出身の若き社員杜氏たちが、糖度や酸度、温度などのデータを緻密に解析する近代的な酒造りを導入しました。歴史に胡坐をかくことなく、科学の力で品質を安定させたこの姿勢こそが、グローバルな評価を勝ち取る原動力になったのだと私は確信しています。
ターゲットを地元から首都圏、そして海外へと広げた結果、2020年6月期の売上予測は3億7000万円にまで回復する見込みです。カタログから低価格帯をさらに削り、プレミアム路線を突き進むその姿は、地方の中堅酒蔵が生き残るための理想的なモデルケースといえます。伝統を守るために伝統を壊す、その勇気ある挑戦に今後も目が離せません。
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