物語の海を渡り歩く文芸評論家、縄田一男氏が2019年11月07日、今まさに読むべき珠玉の3作品を選び抜きました。中でも注目を集めているのが、志水辰夫氏による最新作です。読者の間では、志水氏特有の情緒豊かな文体は「シミタツ節」という愛称で親しまれてきました。本作は、北前船と共に姿を消した主君を追い求める女性・ななえと、動乱のアヘン戦争が吹き荒れる大陸へ渡った岩船新蔵の運命が交錯する、壮大なスケールのエンターテインメントに仕上がっています。
物語の中盤に差し掛かると、ある登場人物がついていた嘘が白日の下にさらされます。この瞬間こそ、往年のファンが待ち望んだ「シミタツ節」が真価を発揮する場面と言えるでしょう。陰翳(いんえい)に富む、つまり光と影が織りなすような奥深い心理描写は、私たちの心を強く揺さぶります。上海の有力者たちが繰り広げる激しい対決や、決死の救出劇といった王道の面白さはもちろん、現代の国際情勢を鋭く風刺するような視点も含まれており、単なる娯楽作に留まらない深みを感じさせます。
SNS上では「一気読みしてしまった」「歴史の重みとスリルが共存している」といった絶賛の声が相次いでおり、読書の醍醐味を再認識させてくれるでしょう。私個人の意見としても、アヘン戦争という歴史的転換点を軸に据えつつ、個人の運命をここまでダイナミックに描ける筆力には脱帽するばかりです。19世紀の混乱を鏡のようにして、2019年現在の世界を問い直すような作家の矜持が伝わってきます。まさに五つ星の評価にふさわしい、時代を貫く傑作といえます。
明智光秀の常識を覆す怪作と、鬼が舞う歴史伝奇の極致
続いて紹介するのは、赤堀さとる氏の『うそつき光秀』です。2020年の大河ドラマを前に注目が集まる明智光秀ですが、本作はその出自や名前すらも「嘘」であるという大胆な設定で描かれています。彼が目指すのは、嘘を駆使して「身分のない平等な世」を作ることでした。歴史の定説を鮮やかに裏切る手法は、まさに一種の「怪作」と呼ぶにふさわしいでしょう。人間の理想や本質を突く鋭いメッセージ性は、変化の激しい現代を生きる私たちに、心地よい刺激を与えてくれるはずです。
最後の一冊は、武内涼氏が放つ『不死鬼』です。こちらは「武内伝奇」の集大成ともいえる作品で、平清盛と源義経の対立という有名な歴史の裏側に、血を吸う「殺生鬼」という恐ろしい存在を組み込んでいます。この怪物を狩る密殺集団「影御先(かげみさき)」の活躍は、ファンタジーと歴史が見事に融合した興奮を与えてくれます。文庫書き下ろしとは思えないほどの密度を誇る本作は、伝奇小説の新たな金字塔となるでしょう。歴史の隙間に潜む闇を愛する読者にとって、これ以上の贅沢はありません。
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