【栗東トレセン50周年】「西高東低」の原動力となった坂路の衝撃と、現代競馬が直面する「外厩」の課題

滋賀県栗東市にある日本中央競馬会(JRA)の調教拠点、栗東トレーニング・センターが2019年11月に開業から50年という大きな節目を迎えました。半世紀という長い歴史の中で、関西の馬たちが関東の馬を圧倒する「西高東低」の時代を築き上げた軌跡は、まさに日本の競馬史そのものと言えるでしょう。かつては関東勢に押されていた関西勢が、どのようにしてその勢力を逆転させたのか、その背景にはある画期的な施設の誕生がありました。

その鍵を握るのが、1985年に導入された「坂路(はんろ)」と呼ばれる傾斜のついた調教コースです。これは、名馬テンポイントを育てた故・小川佐助調教師の「坂のある競馬場で鍛えられる関東馬は強い」という鋭い指摘から生まれました。それまで平坦なコースが中心だった関西に、負荷の高い坂道でのトレーニングが導入されたことで、馬たちの心肺機能や筋力は飛躍的に向上し、1988年にはついに年間勝利数で東西が逆転する歴史的瞬間が訪れたのです。

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巨大組織へと成長した「外厩」がもたらす光と影

しかし、輝かしい歴史の裏側で、現代の競馬界は新たな構造的変化に直面しています。それは「外厩(がいきゅう)」と呼ばれる、トレセン以外の民間牧場が持つ調教施設の台頭です。本来、JRAは「内厩制」というルールを敷いており、レースに出走する馬は一定期間前に必ずトレセンの厩舎へ入らなければなりません。これは、関係者による馬券購入の禁止や不正防止といった、競馬の「公正性」を守るための鉄壁の守りとして機能してきました。

ところが、近年は大手牧場がトレセン顔負けの最新設備を整えたことで、レース直前まで牧場で仕上げるスタイルが定着しています。2019年の凱旋門賞遠征でも、牧場主導で調整や検疫が行われるなど、もはや主導権は現場の調教師から牧場側へと移りつつあるのが現状です。SNS上でもファンからは「牧場の名前で馬券を買う時代になった」との声が上がる一方で、「トレセンの存在意義が薄れているのではないか」という危惧する意見も散見されます。

筆者の視点としては、この変化は効率化という面では評価できるものの、ルールが実態に追いついていない危うさを感じます。トレセン関係者は馬券を買えませんが、民間牧場のスタッフには同様の法的な規制が及びにくいという死角が存在します。世界に誇る日本の競馬が、その信頼の根幹である「クリーンな運営」を維持するためには、この50周年という節目に、外厩を含めた新たな管理体制の再構築が急務であると断言せざるを得ません。

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