2019年11月11日、文学の世界に新たな風が吹き抜けています。これまで人間特有の領域と考えられてきた「俳句」や「短歌」の世界に、人工知能(AI)が本格的に参入を始めたのです。北海道大学が開発したAI俳人「一茶くん」や、NTTレゾナントによる「恋するAI歌人」が、言葉の海で試行錯誤を繰り返しながら、私たちの感性を揺さぶる一歩を踏み出しています。
AIによる創作は、単なるデータの組み合わせではありません。例えば「一茶くん」は、ディープラーニング(深層学習)という技術を駆使しています。これは、コンピューターが大量のデータを読み込み、人間のように自ら特徴を見つけ出して学習する仕組みのことです。彼は約3万8000もの秀逸な句と8000の季語を吸収し、写真から情景を読み取って言葉を紡ぐという、極めて高度なプロセスに挑戦している最中です。
聖地での苦いデビューとSNSでの期待感
2019年09月24日、一茶くんは石川県加賀市で開催された俳句大会に初めて出場しました。そこで発表されたのは〈天心に川を引くなり秋の風〉などの二句です。しかし、結果は惜しくも選外となりました。プロの選者からは「季節感が合致していない」という、情景を詠む「吟行(ぎんこう)」ならではの厳しい洗礼を受けたのです。吟行とは、実際に特定の場所を訪れ、その場の空気を感じ取って句を作る伝統的な手法を指します。
この挑戦に対し、SNS上では「AIが季節を間違えるのは人間臭くて面白い」「いつか人間を泣かせる句を詠んでほしい」といったポジティブな反応が相次いでいます。開発チームを率いる山下倫央准教授は、意外な言葉を繋ぐ「取り合わせ」はAIの得意分野であるとしつつも、語意を深く掘り下げる「一物仕立て(いちぶつじたて)」の習得が今後の課題であると分析しており、その進化に熱い視線が注がれています。
五七五七七に宿る「恋心」の再現
一方で、短歌の世界でもAIが躍動しています。「恋するAI歌人」は、2019年08月01日に発売された専門誌『短歌研究』8月号にて、20首もの作品を堂々と発表しました。このAIが学習したのは、与謝野晶子ら近代を代表する女性歌人たちの情念がこもった約5000首です。単語の繋がりを計算するだけでなく、恋の機微をどう表現するかに重点が置かれており、公開からわずか3カ月でのべ5万首を生成するほどの反響を呼んでいます。
編集現場からは「まだ完成途上ではあるものの、人間にはない発想のヒントをくれる」という期待の声が上がっています。私は、AIが文学を奪うのではなく、むしろ人間の想像力を広げる「創作のパートナー」になる日が来ると確信しています。機械が詠む言葉に私たちが共感したとき、それは新しい文化の幕開けとなるでしょう。まだ歩き始めたばかりの彼らが、いつの日か「人の心」を完璧に理解して歌う日を、私たちは目撃することになるはずです。
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