日本の食文化が世界で高く評価される中、私たちの誇りである「和牛」のアイデンティティを揺るがす深刻な事態が起きています。2019年11月13日、大阪地方裁判所にて、和牛の受精卵などが検疫を通らず不正に中国へ持ち出された事件の初公判が開かれました。家畜伝染病予防法違反ほう助などの罪に問われているのは、徳島県吉野川市で牧場を営んでいた松平哲幸被告です。
検察側はこの日、松平被告に対して懲役1年2月、および追徴金473万円という厳しい刑を求めました。罪状認否において被告は、売却した受精卵が海外へ輸出される可能性を認識していたことを認めています。この「家畜伝染病予防法」とは、家畜の伝染病の侵入を防ぎ、畜産業の安全を守るための法律です。本来、輸出には公的な検査証明書が不可欠ですが、今回はそれが完全に無視されていました。
検察の指摘によれば、不正な取引は2013年頃から繰り返されていたといいます。決定的な場面となったのは2018年6月の出来事でした。松平被告は、和牛の精液や受精卵が入った「ストロー」と呼ばれる細い容器を計365本も、仲介役の男に売却したのです。対価として受け取ったのは473万円という大金でした。フェリーが停泊する大阪港での引き渡しは、密輸の片棒を担ぐ行為そのものと言わざるを得ません。
知的財産の流出を防ぐために私たちが考えるべきこと
SNS上では、このニュースに対して「和牛農家が守ってきた努力を台無しにする行為だ」「たった1年の求刑では甘すぎる」といった怒りの声が噴出しています。多くの人々が、日本の宝である遺伝資源が安易に海外へ流出することへの危機感を募らせているようです。今回の事件で流出した「遺伝資源」とは、優れた品質を次世代に引き継ぐための生物学的な情報のことで、和牛の美味しさを支える根幹です。
編集者としての私の視点では、この問題は単なる法律違反の枠に留まらないと考えています。長年かけて先人たちが改良を重ね、日本の宝として育て上げてきたブランドが、目先の利益のために切り売りされるのはあまりに悲しい現実です。一度流出した遺伝資源を完全に取り戻すことは不可能です。今回の事件を機に、国内の管理体制をより厳格にし、法改正を含めた抜本的な再発防止策を講じる時期に来ているのではないでしょうか。
松平被告側の弁護人は、本人が反省しているとして執行猶予付きの判決を求めており、裁判は即日結審しました。注目の判決は2019年12月25日に言い渡される予定となっています。クリスマスの日に下される審判が、日本の畜産業界にとっての教訓となるのか、あるいは警鐘となるのか、その行方を注視しなければなりません。和牛というブランドの未来を、私たち自身がどう守っていくべきか、今まさに問われています。
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