私たちの食卓に欠かせない卵の価格が、今、激しい揺らぎを見せています。日本人は1人あたり年間で約330個もの卵を消費すると言われていますが、その安定供給を支えてきた現場で深刻な事態が発生しました。きっかけとなったのは、2019年9月9日に上陸し、千葉県を中心に甚大な被害をもたらした台風15号です。この災害による長期停電が、養鶏場の「工場化」という現代ならではの脆弱性を浮き彫りにしました。
SNS上では「スーパーの卵が急に高くなった」「売り切れが目立つ」といった不安の声が相次いでいます。実は、2019年の夏までは過去10年で最低水準の安値で推移していた卵の卸売価格が、9月以降、わずか短期間で1.4倍にまで跳ね上がったのです。この異例とも言える急騰の裏側には、最新鋭の設備を備えた養鶏場が直面した、思わぬ落とし穴がありました。
「ウインドウレス鶏舎」を襲った酸欠と猛暑の脅威
近年の養鶏場では、鳥インフルエンザなどの感染症を防ぐため「ウインドウレス鶏舎」と呼ばれる施設が主流です。これは窓がない完全に密閉された建物のことで、内部の換気や温度調節、さらには給餌までをすべてコンピュータ制御の電気機械で行う仕組みです。衛生管理には非常に優れていますが、ひとたび電気が止まれば、たちまち鶏たちの生存環境が失われるというリスクを抱えています。
2019年9月の停電では、換気扇が停止したことで鶏舎内が酸欠状態に陥り、さらに台風一過の猛暑が追い打ちをかけました。千葉県によると、この停電により約34万4400羽もの鶏が命を落としたといいます。これは県内の飼育数の約3.5%に相当する衝撃的な数字です。命を取り留めた鶏たちも、エサが数日間止まったことで、長期間卵を産まなくなる「強制換羽」のような状態に陥ってしまいました。
効率化の代償と今後の食卓への影響
本来「強制換羽(かんう)」とは、羽を抜け替わらせて産卵能力を回復させるために、計画的に絶食させる手法を指します。しかし今回は、予期せぬ停電によって100万羽から200万羽が、いわば「意図しない休業」を余儀なくされました。養鶏農家も自家発電機を備えてはいましたが、数週間に及ぶ未曾有の長期停電までは想定できていなかったのが実情であり、現場の苦渋の決断が透けて見えます。
私は、今回の件は単なる自然災害ではなく、効率を追い求めた「工場型農業」への警鐘だと感じています。1軒あたりの飼育羽数はこの10年で1.5倍に拡大し、生産コストは下がりましたが、災害時のダメージは一気に巨大化しました。11月に入り供給は回復の兆しを見せていますが、電気に依存しきった供給網の危うさを、私たちは忘れてはならないでしょう。
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