東南アジアを席巻する配車サービス最大手「グラブ(Grab)」をご存じでしょうか。2012年の創業からわずか7年、その企業価値は140億ドルを超える巨大企業へと進化を遂げました。現在、配車のみならず金融や食事の宅配など、人々の生活に欠かせないプラットフォームとなっています。
共同創業者のタン・フイリン氏は、マレーシアの劣悪だったタクシー事情を改善したいという一心で事業を立ち上げたそうです。彼女が目指すのは、単なる利益の追求ではありません。企業が社会的な責任を果たしながら収益を上げる「二重の利益」の実現こそが、同社の根本的な哲学なのです。
「カエル跳び」現象とAIによる生活インフラの劇的進化
新興国では、先進国が歩んだ段階的な発展を飛び越え、最新技術が一気に普及する「リープフロッグ(カエル跳び)現象」が起きています。グラブの成長はこの象徴と言えるでしょう。2016年に開始した電子決済サービスは、銀行口座を持てない層へ新たな金融の形を提示しました。
かつては「枕の下に現金を隠していた」人々が、今ではグラブを通じてローンを組み、収入を証明できるようになっています。また、同社は2000人以上の技術者を擁し、膨大なデータを解析するAI(人工知能)へ多額の投資を継続しています。これは、東南アジア特有の多様な言語や文化を理解するために不可欠な戦略です。
SNS上では「Grabのおかげで移動の不安が消えた」「決済がスムーズで手放せない」といった驚きと感謝の声が溢れています。一方で、急速な拡大に伴う市場独占への懸念も囁かれていますが、タン氏は「技術をどう社会に還元するかが重要」と、その姿勢を明確にしています。
地域密着の「現地化」が成功を分かつ鍵
タン氏は、欧米のビジネスモデルをそのまま持ち込んでも東南アジアでは通用しないと強調します。同じベトナムでも、ハノイとホーチミンでは文化が全く異なるからです。同社が2019年11月17日時点で8カ国約340都市に展開できているのは、現地の声を拾い、現地の人々を雇用してきたからに他なりません。
現在、グラブを通じて収入を得る「サービスの担い手」は900万人を超えています。これは東南アジアの全人口の70人に1人が同社のシステムに関わっている計算になります。デジタル経済が成長することで、個人の雇用が確保され、収入が向上するというポジティブな循環が生まれています。
私は、この「現場第一主義」こそが、多くのグローバル企業が苦戦する中でグラブが独走する最大の理由だと確信しています。テクノロジーはあくまで道具であり、それを使う「人」や「地域」への深い理解こそが、真のイノベーションを生む土壌になるのでしょう。
赤字への逆風を跳ね返す「収益化」への自信
昨今の新興企業を取り巻く環境は厳しく、多額の赤字を抱える企業への視線は冷ややかです。しかし、タン氏は冷静に将来を見据えています。一部の成熟した事業はすでに黒字化を達成しており、2018年に10億ドルを超えた売上高も、2019年には倍増する勢いで推移していると語ります。
日本企業に対しても、タン氏は「カイゼン」の精神を高く評価しつつ、失敗を恐れずに挑戦する文化の必要性を説いています。挑戦から学び、高速で成長を続けるグラブの姿勢は、守りに入りがちな現代のビジネスパーソンにとって、大きな刺激となるのではないでしょうか。
2025年には市場規模が3000億ドルにまで拡大すると予想される東南アジアのデジタル経済。グラブはその中心で、今後も私たちの想像を超える進化を続けていくはずです。社会をより良く変えたいという熱い情熱が、次なる革新の扉を開く原動力となるでしょう。
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