ふとした瞬間に、かつての当たり前だった光景が懐かしく思い出されることがあります。高度経済成長期の映画やドラマを観ていると、喫茶店で向き合うカップルの女性が「お砂糖、いくつ入れる?」と優しく問いかけるシーンが頻繁に登場しました。これに対し、男性が少し格好をつけて「2つ」と答えるのが、当時の定番とも言えるやり取りだったのです。彼女が角砂糖をカップに落とす仕草は、どこか親密な空気を感じさせる特別な儀式だったのかもしれません。
こうした昭和のノスタルジックな光景について、SNSでは「昔のドラマの定番だよね」「角砂糖をトングで入れる動作が優雅に見えた」といった、当時を懐かしむ声が数多く上がっています。しかし、甘い記憶を現代の基準で見つめ直してみると、驚くべき事実が見えてくるでしょう。かつて角砂糖が主流だった時代から、サラサラとしたグラニュー糖へと変わっても、この「いくつ?」という文化はしばらくの間、私たちの日常に根付いていました。
当時の「2つ」という言葉は、スプーンで山盛り2杯分を意味することも珍しくなく、摂取されていた砂糖の量は凄まじいものがありました。統計を紐解くと、2019年11月17日現在の日本人の砂糖消費量は1人あたり年間15キログラム前後ですが、1970年代前半の日本人はその約2倍もの量を摂取していたのです。SNS上でも「今のブラック派が増えた現状からは信じられない」といった驚きの反応が目立ち、いかに食生活が変化したかが伺えます。
経済発展のバロメーターと「砂糖税」の台頭
実は砂糖の消費量は、その国の経済成長と密接に関係していると言われています。かつての日本がそうであったように、現在の急成長を遂げているアジア諸国でも、驚くほど甘い飲み物が好まれる傾向にあります。甘いものを存分に楽しめる環境は、豊かさの象徴でもあったのでしょう。しかし、その一方で肥満や糖尿病といった健康問題も無視できなくなり、各国政府は対策に乗り出しています。
例えばタイやフィリピン、マレーシアといった国々では、甘い飲料に対して「砂糖税」を導入する動きが加速しています。これは、製品に含まれる糖分の量に応じて課税する仕組みのことで、消費者の健康増進と医療費抑制を目的としています。経済発展の喜びを噛み締める一方で、健康管理という新たな課題に向き合う姿は、かつての日本が歩んできた道とはまた異なる、現代ならではの苦労と言えるかもしれません。
翻って現在の日本を見ると、カフェで周囲を見渡してもブラックコーヒーを選ぶ方が圧倒的に増えました。健康意識の高まりやダイエット志向が定着した結果ですが、それでも「糖質」という言葉に敏感になってしまうのが現代人の性でしょう。かつてデートで「おいくつ?」と聞かれた緊張気味の男性が、年齢を尋ねられたと勘違いして「28歳です!」と答えてしまった……。そんな笑い話が日常に溶け込んでいた時代が、少しだけ愛おしく感じられます。
編集者としての私見ですが、食の流行は単なる嗜好の変化ではなく、社会の豊かさや価値観を映し出す鏡のようなものです。当時は「甘さ」こそが幸福の味であり、現代の「健康」こそが至高の価値であるという変化は非常に興味深いと感じます。時代が進み、たとえ生活習慣が変わったとしても、喫茶店で誰かのために砂糖を入れるような、心のゆとりだけは大切に持ち続けていたいものですね。
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