インターネットを介したビジネスが国境を越えて加速する中、私たちの経済活動を支える「データ」の扱いが大きな転換点を迎えています。2019年11月19日、日米貿易交渉で合意された「日米デジタル貿易協定」の承認案が衆議院を通過しました。この協定は、デジタル時代の新たなインフラとも言えるデータの流通を促すための画期的なルールを定めたものです。
今回の協定の大きな特徴は、国家による企業への「データ開示強要」を厳格に禁じている点にあります。これには、音楽や映画といったデジタルコンテンツの配信に対して、将来にわたって関税をかけないという恒久的な約束も含まれています。これまで世界貿易機関(WTO)で議論されてきたルールをより強固なものとし、デジタル経済の自由な発展を日米が主導する姿勢を鮮明にした形です。
SNS上では、このニュースに対して「デジタル覇権争いの最前線だ」「個人情報や企業のノウハウがどう守られるのか注目したい」といった、期待と不安が入り混じった声が上がっています。特にビジネスの根幹に関わる重要な技術情報の保護については、多くの経営者やエンジニアが関心を寄せています。
GAFAの心臓部を守り抜く「ソースコード・アルゴリズム」の秘匿
協定の柱となるのは、ソフトウェアの設計図である「ソースコード」や、AIが判断を下すための計算手順である「アルゴリズム」の保護です。これらはグーグルやアマゾンといった、いわゆる「GAFA」が世界を席巻する力の源泉と言えるでしょう。これまでは進出先の国から開示を求められるリスクがありましたが、今回の協定で原則として開示要求が禁止されます。
「アルゴリズム」とは、膨大なデータから特定の答えを導き出すための、いわば「料理のレシピ」のようなものです。これが流出したり、国に管理されたりすることは、企業の競争力を根底から揺るがしかねません。このルールはIT企業だけでなく、自動運転を開発する自動車メーカーや、工場の自動化を推進する製造業にとっても、自社の知的財産を守る強力な盾となるはずです。
私は、このルールこそが現代の「知的財産権」の再定義であると考えます。企業が巨額の投資をして開発した技術が、国家の不透明な要求によって奪われない環境を作ることは、健全なイノベーションを維持するために不可欠です。一方で、透明性を確保しつつ、どのように「正当な規制」を維持するのかというバランス感覚も、同時に求められているのではないでしょうか。
中国「BAT」への牽制とアジア市場への波及
日米が足並みを揃えてこのルールを急ぐ背景には、中国の巨大IT企業「BAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)」の急成長があります。中国政府は民間データへの介入を強める傾向があるため、日米は自由なデータ流通を前提とした「日米式」のルールをアジア諸国に広め、中国式の囲い込みに対抗しようとする狙いがあります。
興味深いのは、単に自由を謳歌するだけでなく「例外」を設けた点です。独占禁止法や個人情報保護法に違反する疑いがある場合、政府が調査のために一定の介入をできる余地を残しました。これは、巨大IT企業の独占が進みすぎることによる弊害、つまり消費者の不利益や市場の歪みを防ぐための防波堤としての役割を果たすことが期待されています。
日本政府の関係者は、この協定がアジア全域に浸透してこそ真の価値を発揮すると述べています。2019年11月20日現在、データビジネスの主導権争いは激しさを増すばかりです。日米が示した「自由と規制の両立」というモデルが、今後アジアや世界の標準となっていけるのか。私たちのデジタルの未来を左右する、非常に重要な局面にあると言えるでしょう。
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