15年連続で営業最高益を更新し続けているシューズ界の巨人、エービーシー・マートが今、大きな転換点を迎えています。2019年11月26日現在、同社の海外展開における最大の拠点となっているのは韓国です。店舗数は256店にまで達しており、日本国内の約4分の1という驚異的な規模へ成長を遂げました。日韓関係の冷え込みが影を落とす中、その動向に熱い視線が注がれています。
現在、韓国では日本製品の不買運動が激化しており、多くの日系小売企業が苦境に立たされています。しかし、ABCマートへの影響は比較的限定的であるようです。SNS上でも「ABCマートが日本企業だと知らなかった」という声が散見されるほどで、ブランドの出自が目立たないことが、皮肉にも逆風を和らげる防波堤となっているのでしょう。
実際に数字を見てみると、2019年3月から8月期の連結決算に反映された韓国事業の営業利益は、前年同期比で37%増の34億円と極めて好調に推移しました。不買運動が本格化した7月から8月にかけては、既存店の売上高が約1割減少したものの、他のスポーツブランドなどと比較すれば、そのダメージは軽微と言える範囲に留まっています。
専門家からも、2019年9月以降は売上の落ち込みが改善傾向にあるとの分析が出ています。同社が扱う「バンズ」や「ホーキンス」といったブランドは、もともと海外発祥の歴史を持つため、消費者の意識の中で「日本」と結びつきにくいという特徴があります。この独自の立ち位置が、政治的なリスクを回避する一助となっていることは間違いありません。
国内トップシェアゆえの悩みと海外展開を阻むブランドの壁
しかし、投資家たちが真に懸念しているのは、足元の不買運動よりも、その先にある中長期的な成長戦略の欠如です。すでに国内の靴販売市場で圧倒的なシェアを握る同社は、2019年2月期の売上高営業利益率が16%という高水準に達しています。これは驚異的な数字である反面、これ以上の利益率向上や市場拡大を日本国内だけで望むのは、非常に難しくなっています。
成長の鍵を握るのは未知の新市場開拓ですが、ここでも大きな課題が立ちはだかります。それは「ブランド力」のジレンマです。自社で展開するプライベートブランド(PB)は利益率が高いものの、世界的な知名度はまだ十分ではありません。PBとは、小売店が独自に企画・販売する商品のことで、中間マージンを抑えられるため、企業の収益源として重要な役割を果たします。
一方で、誰もが知るナイキやアディダスといった世界的ブランドは、集客力こそ抜群ですが、仕入れ販売が中心となるため、ABCマート側の利益率はどうしても低くなってしまいます。主要ブランドとの共同開発も進めてはいるものの、自社が自由にコントロールできる強力なブランドを世界規模で持っていないことが、海外進出のスピードを鈍らせる要因となっているのです。
ここで注目されるのが、同社が抱える潤沢な資金の使い道です。2019年8月末時点での現預金は1437億円という、半年分の売上高に匹敵する巨額に積み上がっています。フリーキャッシュフロー、つまり会社が自由に使える現金も6年連続でプラスを維持しており、この余剰資金をどのように次の一手へ投じるかが、今後の同社の命運を分けることになるでしょう。
最も効率的なシナリオは、M&A(企業の合併・買収)によって、世界中で通用する強力な新ブランドを手に入れることです。しかし、魅力的なブランドの争奪戦となれば、世界的な巨大メーカーとの競合は避けられません。編集者としての私の視点では、この「持てる資金」をいかに大胆に、かつ緻密に使えるかが、ABCマートが単なる小売店から真のグローバル企業へ脱皮するための試金石になると考えています。
コメント