中国で空前の「起業ラッシュ」が巻き起こっています。中国国家統計局が発表した2018年12月31日時点の経済センサス調査によれば、株式会社などの法人数が2178万に達し、わずか5年前と比較して2倍という驚異的な伸びを記録しました。この背景には、政府が2015年から本格的に推し進めている「大衆創業、万衆創新」というスローガンがあります。
この政策は、誰もが起業を目指し、イノベーションを起こそうという国家プロジェクトです。会社設立の手続き簡素化や、格安オフィス、資金援助といった手厚いバックアップが功を奏し、2019年に入っても1日平均で約2万社が新たに誕生しています。SNS上では「若者のチャンスが広がった」と歓迎する声がある一方で、急速な変化への戸惑いも散見されます。
サービス業へのシフトと「ユニコーン企業」の台頭
産業構造の変化も顕著です。特に第3次産業(サービス業)の伸びが凄まじく、金融業は360%、IT関連は307%という爆発的な増加を見せました。これは、中国経済の主役が「製造業」から「サービス業やハイテク」へと劇的に移り変わっている証拠と言えるでしょう。未上場ながら評価額が高い「ユニコーン企業」も続々と誕生し、社会に活力を与えています。
しかし、この華やかな数字の裏側には、無視できない「雇用のひずみ」が隠されています。法人数が2倍に増えた一方で、そこで働く従業員の数はわずか8%の増加に留まっているのです。1社あたりの平均従業員数は32人から17人へとほぼ半減しており、統計上は「会社は増えたけれど、その中身は小規模で不安定な組織ばかり」という実態が見えてきます。
現在、中国の新規雇用の約7割を支えているのは、法人ではなく「個人事業主」です。以前は農村からの出稼ぎ労働者が工場で安定した職を得ていましたが、景気が減速する中でそうした求人が減り、自ら小さな小売店や飲食店を営まざるを得ない状況が推測されます。自由な働き方と言えば聞こえは良いですが、生活の基盤としては極めて脆いのが現実です。
中小零細を襲う「貸し渋り」と雇用の不安定化
私が懸念するのは、これら雇用の受け皿となっている中小零細企業への金融支援が圧倒的に不足している点です。世界銀行のデータでは、中国の小規模企業で銀行融資を受けられるのはわずか23%に過ぎません。これは先進国の60%と比較しても極端に低く、景気が冷え込む中で銀行側がリスクを恐れて「貸し渋り」を加速させている現状があります。
2019年11月19日には、大手銀行が融資の条件として保険商品を無理やり売りつける不適切な営業も発覚しました。李克強首相は翌日の11月20日に「中小零細企業こそが雇用の柱である」と強調し、金利引き下げと雇用確保を急ぐよう訴えていますが、現場の厳しさは増すばかりです。北京などの大都市では都市整備を名目とした強制閉店も続いています。
数字上の「起業倍増」という華々しい成果に目を奪われがちですが、実態は「不安定な自営業者」が増えているに過ぎない側面があります。真の意味で経済を活性化させるには、起業の「数」を追うだけでなく、小規模事業者が安心して事業を継続できるセーフティネットと、公平な金融システムの構築が急務であると私は確信しています。
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