2019年11月29日、アパレル業界に激震が走るなか、一つの興味深い対談が行われました。日本のアパレル界を牽引するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長と、伝説のブランド「VAN」のDNAを継承する服飾評論家、石津祥介氏による豪華な顔合わせです。
現在、多くのアパレル企業が苦境に立たされています。例えば、大手オンワードホールディングスが600店舗もの閉鎖を発表するなど、業界全体に「飽和感」が漂っているのは否定できません。しかし、その中でユニクロが独走を続ける理由は、彼らが掲げる「ライフウェア」という哲学に隠されていました。
柳井氏は、自らのファッションの原点は1960年代に一世を風靡した「VAN(ヴァンヂャケット)」にあると断言します。高校時代に日本でいち早くボタンダウンシャツを身に纏った少年は、今や売上高2兆3000億円を誇る巨大企業のトップとして、かつての憧れを現代へと昇華させているのです。
「定番」こそが最も革新的であるべき理由
柳井氏が提唱する「トゥデイズ・トラッド(今日風のトラッド)」という言葉には、深い意味が込められています。トラッドとは、本来は伝統的なスタイルを指す「トラディショナル」の略称です。しかし、伝統を守るだけでは、ただの「古臭い服」になってしまい、時代の波に飲まれてしまいます。
「定番の商品こそ、絶え間ない革新が必要だ」と柳井氏は語ります。例えば、一見普通のボタンダウンシャツであっても、現代の空気感に合わせて洗いをかけ、柔らかな風合いに仕上げる。こうした細かなアップデートが、現代の消費者の心を掴むのです。
SNS上でも、「結局ユニクロの定番が一番落ち着く」「シンプルだけど、どこか今っぽい」といった声が多く聞かれます。伝統を盲信せず、今の時代に求められる「着心地の良さ」や「機能性」を少しだけ加える。この絶妙なバランス感覚こそが、ユニクロの強さの源泉だと言えるでしょう。
VANが夢見た「生活ファッション着」の実現
かつて石津謙介氏が率いたVANは、アイビールックという文化を日本に根付かせました。石津祥介氏によれば、創業者は「日本中の男性にVANを着せたい」と願っていたそうです。しかし、当時は価格が高く、その夢は道半ばで潰えることとなりました。
それから数十年。原宿にユニクロが登場した際、石津謙介氏は「これこそが自分が夢見ていた仕事だ」と称賛したといいます。誰もが手に取れる価格で、高品質な定番品を提供する。VANが体系化した「TPO(時と場所、場合に応じた服装)」という概念は、今やユニクロを通じて国民的な常識となりました。
昨今、三井住友銀行がジーンズでの勤務を解禁するなど、日本のビジネスシーンも劇的にカジュアル化しています。服が「社会的地位」を象徴する時代から、自分らしさを表現する「個人のツール」へと変化した今、ユニクロの役割はさらに増していくに違いありません。
ネット専業アパレルが台頭する昨今ですが、柳井氏は「作る力」の重要性を強調します。素材の開発からこだわり、フリースやヒートテックのような革新を起こし続けること。この製造小売業としてのプライドがある限り、日本のファッション文化はさらなる広がりを見せてくれるはずです。
編集者としての私の視点では、ユニクロの成功は単なる安売りではなく、「文化の民主化」だったと感じます。VANが種をまき、ユニクロが花を咲かせた日本のカジュアル史。2019年11月29日の今、私たちは服を通じて新しい生き方を手に入れているのかもしれません。
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