人工知能、いわゆるAIの急速な進化を背景に、今まさに「半導体」が空前の再注目を浴びています。かつては家電やPCの黒衣に過ぎなかったこの小さなチップが、今やAIの知能そのものを左右する決定的な存在へと変貌を遂げました。米中を中心とした巨大IT企業は、AIの情報処理に特化した独自の半導体開発に向けて、猛烈な勢いで火花を散らしているのです。
この熱狂的な状況について、東京大学の黒田忠広教授は、かつて日本が半導体産業で世界を席巻した頃の熱気に酷似していると語ります。驚くべきことに、米国のシリコンバレーには世界中から優秀な技術者と莫大な投資資金が集中しています。もし現代の学生がグーグルなどの超一流企業を目指すのであれば、半導体を学ぶことこそが最大の近道であるという指摘さえ飛び出しているほどです。
SNS上でも「AIブームの本質はハードウェアの進化にある」といった声や、「エヌビディア一強時代の次に何が来るのか目が離せない」という意見が数多く投稿されています。一般的にパソコンの頭脳として知られる「CPU」は、実はAIの複雑な計算にはあまり向いていません。そのため、現在は画像処理を得意とする「GPU」が補助的に使われていますが、それすら超える特化型チップの誕生が待望されています。
「ムーアの法則」の限界とAI特化型チップの必然性
なぜ、これほどまでに新しい半導体が求められているのでしょうか。そこには「ムーアの法則」と呼ばれる、半導体の性能が約18カ月で2倍になるというこれまでの定説が限界に近づいているという事情があります。従来の構造のままでは、AIが必要とする膨大なデータの学習や高速な情報処理を支えきれなくなっており、根本的な設計の見直しを迫られているのが現状なのです。
情報処理の効率を極限まで高めようとすれば、最終的にはソフトウェアだけでなく、物理的な「ハードウェアの実装」に行き着くと東京工業大学の本村真人教授は説きます。つまり、AIの賢さの差は、そのまま搭載されている半導体の性能差に直結するということです。このため、米国のIT巨人たちのみならず、中国のファーウェイやアリババ集団といった企業も、独自チップの開発に心血を注いでいます。
後れを取っていた日本も、2019年に入り反撃の狼煙を上げ始めました。産業技術総合研究所や東京大学は、同年10月から「AIチップ設計拠点」を本格的に始動させています。これは資金力に乏しいベンチャー企業でも、最新の設計ツールや技術を利用できるように支援する画期的な試みです。国を挙げたバックアップ体制を整えることで、国内のAI開発に再び活気を取り戻す狙いがあるのでしょう。
さらに、2019年11月には東京大学と世界最大の半導体受託製造企業である台湾のTSMCが提携を発表しました。これにより、日本の大学や企業が考案した独創的なアイデアを、世界最先端の工場ですぐに試作できる環境が整います。個人的な見解としても、こうしたオープンな協力関係の構築こそが、閉塞感を打破し、日本の技術力が再び世界で輝くための不可欠なピースになると確信しています。
AI向け半導体の世界シェアを巡る戦いはまだ始まったばかりで、どの技術がスタンダードになるかは未知数です。本村教授が指摘するように、日本がこれまでに蓄積してきた膨大な知見を活かせば、ここからの大逆転は十分に可能でしょう。デジタル社会の「心臓」を再び手中に収めることができるのか、私たちは今、歴史的な転換点の目撃者となっているのかもしれません。
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