2019年12月04日現在、鉄鋼メーカーが原料として活用する鉄スクラップの価格は、今年の底値圏で推移を続けています。足元ではわずかな反発の兆しを見せているものの、全体的な鋼材需要の停滞が影を落とし、かつての勢いを取り戻すには至っていません。
この現状について、鉄リサイクリング・リサーチの代表を務める林誠一氏は、海外市場の動向が国内に波及した結果であると分析されています。トルコやベトナムでの価格上昇が日本国内の買値を押し上げた形ですが、これは需要の爆発的な増加ではなく、長引く下落に対する一時的な揺り戻しの側面が強いようです。
SNS上では「スクラップ価格が上がらないと回収業者の経営が厳しくなる」といった懸念や、「鉄の価格は景気の先行指標だから、今の停滞は不安だ」という声が散見されます。リサイクル現場の切実な状況が、市場の数字からも透けて見えるでしょう。
輸出先の変化と世界経済の不透明感
2019年の大きなトピックは、輸出先としてのベトナムの存在感が増したことです。これまで主要な相手国だった韓国が鋼材生産の苦境に立たされる一方で、ベトナムはインフラ整備を伴う力強い経済成長を背景に、日本産スクラップへの需要を高めています。
しかし、世界に目を向ければ米中貿易摩擦による先行き不安が、鋼材需要の回復を阻む大きな壁となっています。ここで言う米中貿易摩擦とは、2国間での関税引き上げ合戦のことであり、これが製造業の停滞を招き、鉄の需要を世界的に冷え込ませているのです。
日本国内でも輸出向け製品に使用される鋼材の動きは鈍く、政府の進める「国土強靱化(災害に強い国づくり)」による需要への期待感はあるものの、市況全体を劇的に押し上げるほどの決定打には欠けるというのが専門家の冷静な見立てです。
2020年の展望と環境意識の高まり
林氏は、過去10年の傾向から「鉄スクラップ市況は民間の設備投資と連動している」と指摘されています。企業が工場や設備に投資を控える2020年の予測を見る限り、来年もスクラップの荷動きが劇的に改善するシナリオは描きにくいと言わざるを得ません。
また、鉄鋼業界における「高炉」と「電炉」のバランス変化も重要な鍵を握ります。高炉とは鉄鉱石を溶かして新しい鉄を作る設備であり、電炉は鉄スクラップを電気で溶かして再利用する設備です。現在は高炉が主流ですが、環境問題への配慮から電炉シフトが進む可能性があります。
編集部としては、短期的には厳しい状況が続くものの、脱炭素社会への移行は鉄スクラップの価値を中長期的に高めると考えます。リサイクル資源としての鉄の重要性が再認識されることで、業界の構造そのものがアップデートされる時期に差し掛かっているのかもしれません。
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