2019年12月04日、宮城県の女川原子力発電所をめぐる動きが大きな局面を迎えました。東北電力女川原発2号機が、原子力規制委員会による厳しい審査に事実上合格したことを受け、再稼働の是非を問う議論が加速しています。通常、審査の合格は電力会社にとって追い風となりますが、これに真っ向から異議を唱える住民団体の動きが今、日本中の注目を集めているのです。
石巻市の住民団体は、2019年11月に石巻市と宮城県を相手取り、再稼働に同意しないよう求める仮処分を仙台地裁に申し立てました。ここでいう「仮処分」とは、本格的な裁判の判決を待っていては間に合わない緊急の事態において、裁判所が一時的な命令を下す法的な手続きを指します。今回のケースでは、一度再稼働してしまえば取り返しがつかないという危機感が背景にあるのでしょう。
2019年12月03日に行われた審尋では、住民側の代理人を務める小野寺信一弁護士が会見に応じました。驚くべきことに、小野寺弁護士は原子力規制委員会の審査合格を「前提」として手続きを進める方針を明らかにしています。再稼働反対派が「合格」を受け入れる姿勢を見せるのは極めて異例ですが、そこには戦略的な狙いが隠されていると私は分析しています。
焦点は安全対策から「自治体の避難計画」へ
これまでの原発訴訟では、原発そのものの安全性や地震対策が主な争点となるのが通例でした。しかし、今回の申し立ては「自治体が策定した避難計画に実効性がない」という一点に絞られています。これは全国で初めての画期的な試みです。つまり、ハードウェアの安全性ではなく、万が一の際に住民が本当に逃げられるのかという、私たちの命に直結するソフトウェアの問題を問うているのです。
小野寺弁護士は、あらかじめ審査に合格することを想定した上で、避難計画の不備を徹底的に主張していく構えを見せています。本格的な主張が展開されるのは2020年02月以降になる見通しですが、行政側である石巻市と宮城県は、この申し立ての却下を強く求めている状況です。SNS上では「避難路が限られる半島地域で本当に逃げられるのか」といった不安の声が相次ぎ、議論が紛糾しています。
私は、この「避難計画を争点にする」というアプローチこそ、現代の原発議論において最も避けては通れない本質的な問いだと考えています。どれほど設備が強固であっても、人間が運用し、社会の中で稼働する以上、完璧な安全は存在しません。今回の仮処分申請の結果は、今後の日本における原発と地域社会の在り方を決定づける、重要な試金石となることは間違いないでしょう。
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