2019年11月15日現在、東京都内の飲食店経営者たちは大きな転換点を迎えています。2020年4月1日から全面施行される「東京都受動喫煙防止条例」により、従業員を雇っている店舗は、専用の喫煙室を設置しない限り、原則として屋内での喫煙が禁止されるからです。これは国の法律よりも厳しい独自のルールであり、SNS上では「ついに東京からタバコが吸える店が消えるのか」「愛煙家の居場所がなくなる」といった不安の声が上がる一方で、非喫煙者からは「食事が楽しみやすくなる」と歓迎の意見が飛び交っています。
実際に動いているお店もあります。八王子市の「焼き鳥小太郎」では、2019年3月に約90万円を投じて喫煙専用室を設置しました。3席分のスペースを削るという苦渋の決断でしたが、蓑輪雅治社長は「タバコを吸わないご家族連れが増えた」と確かな手応えを感じているようです。一時的に客足が遠のくリスクを承知の上で、時代のニーズに合わせた経営判断を下した好例と言えるでしょう。こうした前向きな投資は、中長期的なファン層の拡大に繋がる可能性を秘めています。
立ちはだかる「費用の壁」と中小店舗の苦悩
しかし、すべての店がスムーズに移行できるわけではありません。立川市の串揚げ店「トントン」のように、100万円を超える設置見積額に絶句し、導入を足踏みする経営者も少なくないのです。「大手チェーンのような資金力はない」という切実な悩みは、多くの中小飲食店の本音を代弁しています。ここで言う「受動喫煙」とは、他人のタバコの煙を吸い込んでしまう健康被害を指しますが、これを防ぐための設備投資が、皮肉にも個人店などの経営を圧迫するというジレンマが生じている状況です。
東京都は工事費の10分の9を補助する手厚い支援策を用意していますが、2019年11月時点での申請件数は数十件に留まっています。審査期間を考慮すると、2020年1月までの申請が推奨されていますが、現場の動きは鈍いままです。これは単なる金銭負担だけでなく、工事期間中の休業や、客席数が減ることによる売上減少を懸念しているからでしょう。私は、この補助金制度の周知不足や、物理的なスペース確保の難しさこそが、中小店舗を追い詰めている真の課題だと感じています。
一方で、法令を逆手に取って潔く「全面禁煙」へと舵を切るお店も現れています。東村山市の中華料理店「一翠」では、常連客の理解を得ながら禁煙化を進める方針です。小島佐知子店長が語るように、喫煙マナーへの意識が高まっている今、ルールとして一律に決まることは、店側にとって「断る理由」になり、かえって運営が楽になる側面もあるはずです。タバコよりも料理の質や空間の快適さで勝負する、そんな飲食業界の健全な進化を期待せずにはいられません。
家族経営で従業員がいない店舗など、一部の例外を除いては、東京の街角から「煙」が消える日はすぐそこまで来ています。喫煙率が低下し続ける現代において、飲食店は単に「食事を提供する場」から、「誰もが安心して過ごせるクリーンな空間」へと再定義を迫られています。2020年4月の施行を機に、東京のグルメシーンがどのように塗り替えられていくのか。変化を恐れず、新しい顧客体験を創造できるお店こそが、次世代の勝ち組となるに違いありません。
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