製造業の巨塔、ファナックがいま、かつてないほど「品質」への執念を燃やしています。2019年11月18日、山梨県忍野村の本社から届いたニュースは、まさに逆境を糧にする王者の風格を感じさせるものでした。米中貿易摩擦の荒波を受け、受注環境が厳しさを増すなか、同社は約114億円という巨費を投じて「信頼性評価棟」を本格稼働させています。
この巨大な施設は、これまで各部門に分散していた評価機能を一つに集約した「品質の聖域」です。大型トラックがそのまま進入できるほどの広大な空間で、数値制御(NC)装置やロボットたちが、文字通り「壊れるまでいじめ抜かれる」過酷なテストに日々さらされています。自社製品を徹底的に追い込むことで、隠れた弱点をあぶり出すのが狙いです。
外部なら2週間の分析をわずか2時間へ!驚異のスピード改革
特筆すべきは、その圧倒的な開発スピードの向上でしょう。従来、外部機関に依頼していた高度な分析作業が、自社施設内の3D測定器などを活用することで劇的に短縮されました。担当者が「1〜2週間かかっていたものが1〜2時間で済むようになった」と語る通り、この時間短縮は激動の市場において、競合他社を突き放す強力な武器となります。
さらに、独自のIoTプラットフォームである「フィールドシステム」も導入されています。IoTとは「モノのインターネット」を指し、あらゆる装置をネット接続して状態を監視する技術です。これを評価実験に活用することで、故障の予兆を科学的に捉え、製品の耐久性をミリ単位、秒単位でデータ化し、次世代モデルの設計へ即座に反映させています。
「壊れない」を科学する!食品現場から宇宙レベルの精度まで
ロボットの活躍の場は、もはや清潔な工場だけではありません。稲葉清典取締役が指摘するように、現在は食品加工や切削液が舞う過酷な現場での需要が急増しています。こうした多様な環境に対応するため、同社ではプラスチック成型機の重要部品である「ボールねじ」に対し、10年分の稼働に相当する3000万回以上の連続運転テストを課しています。
SNS上でも「これぞ日本のモノづくりの真髄」「不況時に設備投資を惜しまない姿勢が恐ろしい」といった驚きと称賛の声が上がっています。部品メーカーに品質を丸投げせず、自社で電磁耐性(ノイズ影響)まで厳密にチェックする姿勢は、まさに「ファナック品質」を担保するための意地とプライドの現れと言えるでしょう。
私自身の見解としても、この投資は極めて賢明な判断だと考えます。景気後退期にコストを削る企業が多いなか、固定費増を厭わず研究開発費を2014年比の3倍にまで積み増した決断は、次に訪れる好景気での爆発的な成長を確約するものです。「壊れない、壊れる前に知らせる」という標語を具現化する同社の執念は、日本の製造業の鑑です。
2020年3月期の業績見通しは下方修正を余儀なくされましたが、この足踏みは高く跳ぶための助走に過ぎません。茨城県や栃木県への製造拠点分散も含め、リスク管理と品質向上を同時に進めるファナック。不況という寒風のなかで着々と爪を研ぐその姿は、世界の製造現場に再び「黄色い旋風」を巻き起こす準備が整っていることを示しています。
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