2019年11月28日、スポーツライターの藤島大氏が、独自の視点で選んだ「今読むべき3冊」を紹介しています。中でも注目を集めているのが、最強牝馬アーモンドアイを手がける国枝栄調教師の著書『一筋の世界に知は深まる』です。SNS上では「競馬ファン以外も読むべき名著」「馬に対する深い愛情が伝わる」と大きな反響を呼んでおり、一つの道を究めた者だけが到達できる思考の深さに、多くの読者が感銘を受けているようです。
国枝氏の信条は、常に馬の幸せを最優先に考える「ホースファースト」にあります。大学の馬術部時代から変わらぬ、馬への純粋な憧れや敬意を抱き続けている点が非常に印象的です。馬にストレスを与えないよう、ゆったりとした環境で育てる手法を重視していますが、それは決して勝負を疎かにすることではありません。むしろ、レース戦略や勝利への執念においては、適者生存を意味する「優勝劣敗」の厳しさを徹底的に貫いているのです。
本書の白眉は、日本の競馬界が抱える構造的な問題に鋭く切り込んだ第5章と第6章でしょう。長年言われている、関西の厩舎が関東より強い「西高東低」の現象について、トレーニングセンターの設備や競馬場との距離といった具体的な要因を論理的に分析しています。年間2兆8000億円もの巨大な売り上げを誇る業界でありながら、公正な競争条件が整っていない現状に異を唱える姿は、競馬に詳しくない人々の目にも誠実に映るはずです。
私個人としても、国枝氏のような「現場のプロ」が、組織の不条理を恐れずに指摘する姿勢には強く共感いたします。成功の裏にある緻密な戦略と、対象への無垢な愛が同居している点こそ、彼が超一流である所以でしょう。馬券を買わない方であっても、一つのプロフェッショナル論として、清々しい読後感を味わえるに違いありません。まさに、知的好奇心を刺激する一冊といえるのではないでしょうか。
サッカー史家が綴る代表論と、波間に宿るリアルな詩情
次にご紹介するのは、後藤健生氏による『森保ジャパン 世界で勝つための条件』です。歴代の日本代表監督を論じる際、取材対象と近すぎると客観性を失いがちですが、サッカー史家でもある著者は絶妙な距離感を保っています。自身の感情を排し、歴史的な文脈から冷静に分析された監督論は、極めて高い信頼を勝ち得ています。サッカー界の変遷を俯瞰して見つめる視点は、スポーツの本質を理解する上で欠かせないものとなるでしょう。
最後の一冊は、平田毅氏の『インスピレーションは波間から』です。フィジーやザンジバル島など、世界各地をカヤックで巡る著者が綴るのは、自然との対話が生んだ「本物の詩情」に満ちた記録です。太古から続く時間の流れを波肌に感じながら、自分自身の言葉で語られる静かな饒舌さは、現代人が忘れかけている感覚を呼び覚ましてくれます。借り物の言葉ではない、実体験に基づいた魂の叫びが、読者の心に深く染み渡るはずです。
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