日本の製造業の常識を覆す、驚きの技術が社会実装に向けて大きく動き出しました。東京大学発のスタートアップ、エレファンテック株式会社が、セイコーエプソンや三井化学といった名だたる大手企業9社を引受先として、総額18億円という巨額の資金調達を実施したのです。同社が武器とするのは、インクジェットプリンターの原理を応用して、電子回路を文字通り「印刷」してしまう独自の革新的な技術です。
これまでスマートフォンや家電製品に欠かせないフレキシブル基板(FPC)の製造には、銅を張った基材を薬品で溶かす「エッチング」という手法が一般的でした。しかし、エレファンテックの清水信哉社長は、必要な部分にだけ銀ナノインクを吹き付け、その上に銅メッキを施す画期的な工法を確立しました。この手法は、まさに「引き算」から「足し算」への転換であり、製造コストを最大で3分の1にまで抑える可能性を秘めています。
環境負荷を10分の1に激減させるサステナブルな量産戦略
現在、世界中の製造業においてサプライチェーン全体の環境対応が急務となっていますが、この印刷式製法は驚異的な環境性能を誇ります。従来の製法と比較して、水や銅などの廃棄物を10分の1以下に削減できるというのです。この圧倒的なエコロジー性能が追い風となり、量産体制が整えばすぐにでも採用したいという顧客が、2019年12月10日現在の時点ですでに複数名乗りを上げています。
調達した18億円の主な使途は、三井化学の名古屋工場内に構築する大規模な量産ラインです。この新拠点は2020年9月の完工を目指しており、稼働すれば生産能力は現在の50倍にあたる月間5万平方メートルに達します。スタートアップが直面する、研究から事業化への難所「死の谷」を、大手企業のインフラとノウハウを借りることで一気に飛び越えようとする、非常にスマートな戦略だと言えるでしょう。
SNS上でも「基板を印刷するなんて魔法のようだ」「日本のものづくりに希望が持てる」といった期待の声が上がっています。特に、三井化学の工場運営能力やエプソンのヘッド技術を融合させるオープンイノベーションの形は、単なる資金集め以上の意味を持っています。スタートアップの機動力と大企業の信頼性が結びついた、理想的なパートナーシップの姿がここにあります。
自動車の軽量化も実現?広がる立体配線の未来地図
清水社長が見据える未来は、平面の基板だけにとどまりません。樹脂などの立体的な部品に直接回路を印刷する「立体配線」の研究開発にも投資を加速させています。例えば、自動車の複雑なワイヤハーネスを印刷技術で代替できれば、車体の大幅な軽量化につながります。実用化には5年以上の歳月を要する見込みですが、2019年12月10日の段階ですでに車載メーカーとの共同開発が始まっている点は特筆すべきです。
筆者の視点から言えば、エレファンテックの挑戦は単なるコストダウンの手段ではありません。これは、重厚長大だった電子部品製造をデジタルで制御可能な「オンデマンド製造」へと変容させる革命です。2020年代前半の上場(IPO)を目標に掲げ、2030年にはこの製法を世界のデファクトスタンダードにすると断言する清水社長の言葉には、確かな技術的裏付けと、社会を変えようとする起業家としての強い覚悟が感じられます。
マッキンゼー出身の論理的な思考と、東大の研究成果が融合して生まれたこの事業が、日本の製造業の新たなスタンダードになる日は、そう遠くないでしょう。2020年から本格化する量産出荷によって、私たちの手元にあるデバイスがより軽く、より安く、そして環境に優しいものへと変わっていくのが今から楽しみでなりません。
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