インターネットを通じて薬剤師から薬の説明を受け、自宅にいながら処方薬を購入できる「オンライン服薬指導」。2020年度の全国解禁を前に、大きな注目を集めています。しかし、先行して実施された国家戦略特区での現状は、期待とは裏腹に厳しいものとなっています。2018年6月にスタートしてから1年3カ月が経過した2019年9月30日時点で、利用者はわずか16人。登録店舗数である29店を下回るという、衝撃的な少なさが浮き彫りになりました。
SNSでは「離島や過疎地の人には必須のサービス」「待ち時間がなくなるのは嬉しい」といった期待の声が上がる一方で、「条件が厳しすぎて使いたくても使えない」という不満も噴出しています。利便性を高めるための制度が、皮肉にも複雑なルールによって縛られているのが現状です。医療費抑制の切り札としても期待されるこの制度ですが、本格的な普及には、山積する課題を一つずつ解消していく必要があるでしょう。
高すぎるハードルと地域で異なる複雑なルール
なぜこれほどまでに利用が進まないのでしょうか。その大きな要因は、利用者に課された厳しい要件にあります。オンライン診療を受けた慢性疾患の患者であることに加え、特定の地域に居住し、さらに「最寄りの薬局が遠い」といった条件をすべて満たさなければなりません。この「距離」の基準も厄介で、兵庫県養父市では自宅から2キロメートル圏内に薬局がない場合ですが、愛知県では16キロメートル以上離れていることが求められるなど、地域差が激しいのです。
「服薬指導」とは、薬剤師が患者に対して薬の効果や正しい飲み方、注意すべき副作用を説明することを指します。本来、副作用のリスクがある処方薬は対面での説明が義務付けられていますが、特区ではこれがテレビ電話で代用可能となりました。しかし、端末の操作に不慣れな高齢層にとっては、このデジタル化自体が新たな壁となっている側面も否めません。薬局側からも「登録はしたものの、条件に合う患者が見つからない」という悲痛な声が漏れています。
デジタル化を阻む「紙の処方箋」というアナログな壁
さらに、システム上の効率化を阻んでいるのが「処方箋の電子化」の遅れです。現在はオンラインで指導が完了しても、病院から紙の処方箋の原本が薬局に届くまでは、薬を発送することができません。郵送に1日以上を費やすため、結局のところ「ネットで即完結」とはいかないのが実情です。配送中の紛失リスクや責任の所在など、法整備が追いついていない点も現場の不安を煽っています。
日本薬剤師会は、安全性の観点から慎重な姿勢を崩していません。対面指導こそが安全の要であると主張していますが、その背景には、ネット通販の普及によって既存の中小薬局が淘汰されることへの危機感も見え隠れします。一方で、米国のアマゾンが処方薬市場に参入するなど、世界的なデジタルシフトの流れは止まりません。7兆円規模とされる国内の調剤市場が、今後どのように変革していくのか、その岐路に私たちは立たされています。
私は、この制度が単なる「時短ツール」ではなく、通院が困難な方々の「命を繋ぐインフラ」になるべきだと考えます。安全性を守ることは大前提ですが、あまりに煩雑なルールはイノベーションを殺してしまいます。2019年12月7日に成立した改正薬機法により、2020年には全国解禁が見込まれていますが、特区での失敗を教訓に、真に患者の利便性に寄り添った柔軟な運用がなされることを切に願います。
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