愛知県名古屋市に拠点を置く、老舗みそ・しょうゆメーカーのイチビキが、新たな100年に向けて大きな舵を切りました。2019年4月に会社設立100周年という記念すべき節目を迎えた同社は、これまで主力だった家庭用商品に加え、業務用商品の営業体制を大幅に強化する方針を固めたのです。現在約2割にとどまっている業務用の売上比率を3割まで引き上げることで、より強固な収益基盤の構築を目指しています。
今回の改革の目玉は、時代のニーズに即した「オーダーメード型」の受注スタイルです。これは単に醤油やみりんといった素材をそのまま販売するのではなく、顧客の要望に合わせて調合した「合わせ調味料」として納品する手法を指します。深刻な人手不足に直面している食品工場にとって、調合の手間を省けるこの仕組みはまさに救世主と言えるでしょう。SNS上でも「プロの味を効率よく取り入れられるのは合理的」と期待の声が上がっています。
伝統の「たまり」が救う煮魚の悩みと組織のスピード化
イチビキが攻勢をかける武器の一つに、中部の食文化を支える「たまりしょうゆ」があります。一般的な濃口醤油は大豆と小麦を同量程度使いますが、たまりはほぼ大豆のみを原料とするため、旨味が強く独特の香りが特徴です。特に魚の生臭さを消す効果に優れており、実際に納入先の飲食店からは「煮魚の臭みが消えて仕上がりが劇的に良くなった」と驚きの声が届いています。地域外への認知度向上も、今後の大きな鍵となるはずです。
こうした現場の声を迅速に形にするため、組織改革も断行されました。同社はこの2年間で業務用の営業員を増員しただけでなく、これまで別々だった「営業」と「商品開発」の部長職を兼務制に変更しています。部署間の壁を取り払うことで、顧客の要望を即座に商品設計へ反映させる「スピード経営」を実現しました。意思決定の速さは、変化の激しい現代の食品業界において、競合他社に対する大きなアドバンテージとなることでしょう。
健康志向とトレンドを捉えるイチビキの先見明
主力である家庭用市場でも、同社の勢いは止まりません。2019年2月には、近年の時短ニーズに応えるパウチ惣菜市場へ、健康を意識した「減塩シリーズ」を投入しました。さらに夏には外食業界でブームとなっている黒酢を使用した調味料を発売するなど、消費者のトレンドを素早くキャッチする姿勢が鮮明です。私は、伝統を守るだけでなく、現代の食生活に寄り添う柔軟な姿勢こそが、100年続く企業の真髄であると感じています。
中村光一郎社長は、業務用比率の向上によって経営基盤をいっそう安定させたいと強い意欲を示しています。単なる「モノ売り」から、レシピの共同開発まで踏み込んだ「ソリューション提供」への転換は、BtoBビジネスにおける理想的な進化と言えるのではないでしょうか。SNSでの反響を見ても、地元企業の躍進を応援するユーザーは多く、伝統の味が全国の食卓や飲食店を彩る日はそう遠くないはずです。
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