「私は税調のトランプになる」。2019年11月下旬、自民党税制調査会の甘利明会長が放ったこの一言は、永田町に大きな衝撃を与えました。2020年度の税制改正に向けた議論が本格化する中、甘利氏は国際秩序を揺さぶる米大統領になぞらえ、従来の慣例を打破する強い決意を表明したのです。
この大胆な宣言に対し、SNS上では「停滞した議論を動かす突破力に期待したい」という応援の声がある一方で、「独断専行にならないか不安だ」といった懸念も広がっています。笑いを交えつつも、その眼光は鋭く、単なる調整役にとどまらない「攻めの姿勢」がひしひしと伝わってきます。
自民党税制調査会、通称「党税調」は、日本の税の仕組みを形作る最強の専門家集団です。毎年末、各省庁から出される膨大な要望に対し、一つひとつ精査して採否を決める役割を担います。特に「インナー」と呼ばれる9人の有力幹部が、事実上の最終決定権を握る鉄の結束を誇ってきました。
デジタル変革を勝ち抜くための「新時代税制」への転換
これまで党税調は、業界団体や族議員(特定の分野に精通し利害を代弁する議員)の意見を調整する場として機能してきました。しかし、2016年にインナー入りした甘利氏の目には、この仕組みが変化の激しい現代において「スピード感に欠ける」と映ったようです。
甘利氏が重視しているのは、急速に進むデジタル化とグローバル化への対応です。安倍晋三首相からは「税の世界の政調会長として、先手で政策を提言してほしい」との密命を受けています。これは、従来の「受け身の査定」から、国を導く「攻めの政策誘導」への歴史的な転換を意味します。
その具体策として、甘利氏は2019年9月30日に、企業の内部留保をデジタル投資へと振り向ける税制優遇措置を打ち出しました。事前の根回しを省き、自らの持論を先行させる手法は、まさに「トランプ流」と言えるでしょう。周囲の反発を恐れぬこの行動こそ、日本再生への捨て身の覚悟の表れかもしれません。
官邸主導の時代に問われる「税調」の存在意義
かつて「聖域」と呼ばれた党税調も、近年はその影響力に陰りが見えています。第2次安倍政権以降、軽減税率の導入などの重要案件は官邸や公明党が主導するケースが増えました。また、経済安全保障や5Gといった最先端分野の議論には、税の知識だけでは太刀打ちできない現実もあります。
私は、今回の甘利氏の揺さぶりは、形骸化しつつあった組織に命を吹き込む劇薬になると考えます。専門家による緻密な議論も大切ですが、世界がデジタル覇権を争う中で、政治のリーダーシップによる「突破口」は不可欠です。摩擦は新しい形を生むための産みの苦しみではないでしょうか。
1959年の発足から60年、還暦を迎えた党税調はいま、大きな分岐点に立っています。国際社会のスタンダードを見据え、甘利氏が投じた一石が、日本の税制をより力強く、未来志向のものへと変容させるきっかけになることを願ってやみません。
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