私たちの食卓が、今まさに科学の力で劇的な進化を遂げようとしています。2019年12月20日、EY Japanのシニアマネージャーである斉藤三希子氏は、バイオ技術がもたらす食料革命の可能性について極めて重要な提言を行いました。世界的な人口増加や経済発展に加え、深刻な気候変動が食料価格を押し上げる中、この技術は人類の救世主となるかもしれません。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2019年08月に発表した特別報告書は、世界に衝撃を与えました。2050年には気候変動の影響により、穀物価格が最大で23%も高騰するリスクが指摘されているのです。こうした危機を乗り越える切り札として期待を集めているのが、遺伝子を自在に操作する「ゲノム編集」という革新的な技術でしょう。
ここで「ゲノム編集」について少し詳しく解説しましょう。これは、生物の設計図であるDNAの特定の場所を、まるでハサミで切り取るようにピンポイントで改変する技術を指します。従来の品種改良が長い年月をかけて偶然の変異を待っていたのに対し、この技術は狙い通りに「効率的」かつ「短期間」で、高栄養や病気に強い品種を生み出せるのが特徴です。
世界中で加速するバイオベンチャーの挑戦
世界の大手種子企業は、すでにこの技術の実用化へ向けて大きく舵を切っています。例えばアメリカのコルテバ・アグリサイエンスは収穫量の多いトウモロコシを開発し、ドイツのバイエルも大豆や小麦の研究を急ピッチで進めています。まさに、世界は「バイオの世紀」へと突入しており、その勢いはとどまるところを知らない様子です。
新興企業の活躍も目覚ましく、2019年02月にはアメリカのカリクスト社が高オレイン酸大豆から作った油の販売を開始しました。SNS上でも「ついにゲノム編集食品が市場に出たのか」と驚きの声が上がる一方で、科学技術がこれほど身近なものになったことに期待を寄せるユーザーも多く見受けられ、大きな反響を呼んでいます。
日本国内に目を向けても、最先端の研究が花開いています。京都大学では身がたっぷりと詰まった肉厚なマダイやトラフグが、筑波大学では血圧抑制効果のある「GABA」を豊富に含むトマトが開発されました。さらに農研機構では驚異的な収穫量を誇るイネの研究が進むなど、私たちの健康や家計を支える成果が次々と報告されているのです。
技術への信頼と透明性が切り拓く新時代
しかし、技術がどれほど素晴らしくても、受け入れる側の心理的な壁はまだ高いのが現状でしょう。2019年06月に日本ゲノム編集学会で発表された意識調査によれば、約4割の方がゲノム編集食品を食べることに抵抗を感じているといいます。これは過去の遺伝子組み換え食品に対する不安が、依然として根強く残っている証左かもしれません。
こうした懸念を受け、2019年10月01日から厚生労働省による販売・流通の届け出制度がスタートしました。ただ、この制度は現時点では「任意」であり、義務化はされていません。真面目に届け出を行った企業の商品だけが敬遠される「正直者が馬鹿を見る」状況を防ぐためにも、より明確なルールの整備が業界全体で求められています。
私は、この技術を単なる「効率化」の道具として終わらせてはならないと考えます。大切なのは、安全性の証明と徹底した情報の透明性です。消費者がメリットを正しく理解し、安心して選べる環境さえ整えば、ゲノム編集は美容や健康増進に寄与する身近なパートナーになるはずです。信頼の醸成こそが、バイオの未来を輝かせる鍵となるでしょう。
コメント