私たちは日々、誰かと支え合いながら生きています。しかし、現代社会における繋がりは、時に希薄に感じられることもあるでしょう。そんな中、神奈川県相模原市の藤野地区では、一風変わった「エン」の形が注目を集めています。それは、単なる金銭のやり取りを超えた、応援や縁、そして宴のような賑わいを含んだ新しいコミュニティの在り方です。
2020年01月01日現在、人口1万人を下回るこの静かな町で、独自の地域通貨「萬(よろづ)」が熱い視線を浴びています。地域通貨とは、特定の地域内だけで流通する独自の通貨を指し、法定通貨である「円」を補完しながら地域経済の活性化や住民同士の絆を深める役割を担うものです。この「萬」が画期的なのは、借金が多い人ほど「長者」として讃えられるという驚きの仕組みにあります。
「頼り上手」が地域のハブになる逆転の発想
都心のIT企業で多忙な日々を送っていた小山宮佳江さんは、2008年にこの地へ移住しました。かつての彼女は、稼いだお金を消費に費やす生活を「ハムスターの滑車」のようだと感じていたそうです。しかし藤野での生活は、彼女の価値観を劇的に変えました。「車が欲しい」と投稿すればすぐに実物が提供されるような、驚くべき互助の精神がそこには根付いていたのです。
約600人が参加するメーリングリストでは、日常の些細な「困りごと」が共有されます。各々が紙の通帳を持ち、互いに施したことや助けてもらったことを自由に記していくスタイルです。ここでいう「負債」とは、誰かの力を借りた証に他なりません。事務局の池辺潤一さんは、マイナス残高が多い人こそが、地域の資源や他人の才能を引き出す「巻き込み上手」であると評価しています。
SNS上では、このシステムに対して「究極の信頼関係があってこそ成り立つ仕組みだ」「孤独を感じがちな現代において、頼っても良いという安心感は救いになる」といった感動の声が広がっています。従来の経済学では考えられないことですが、マイナスを恐れず誰かを頼ることが、結果としてコミュニティを豊かにする「感謝の連鎖」を生んでいるようです。
音楽と野菜が彩る「ビオ市」とアナログの温もり
高齢化が進む山間の地域でありながら、月に2回開催される「ビオ市」は、まるで原宿のような活気に満ち溢れています。新鮮な野菜や焼き菓子が並ぶ傍らで、DJブースからは心地よい音楽が流れ、若者からお年寄りまでが集います。ここでも「萬」が使用されており、支払いのツールとしてだけでなく、会話のきっかけや心の充足感を生む装置として機能しています。
私は、この取り組みこそが効率重視の現代が忘れてしまった「心の余白」を取り戻す鍵になると確信しています。数値化された損得勘定ではなく、誰かの役に立ちたいという純粋な意欲や、助けられた時の肯定感が通貨として循環しているのです。これは単なるシェアリングエコノミーを超えた、人間味溢れるアナログ経済圏の最先端と言えるでしょう。
2020年01月01日、新しい年を迎えた今、藤野で見られる光景は私たちに問いかけています。本当の豊かさとは、お金を貯め込むことではなく、いかに多くの人を巻き込み、共に生きていくかにあるのではないでしょうか。奪い合うのではなく生かし合う、この温かな通貨の輪が、今後さらに多くの地域に希望の光を灯していくことを願ってやみません。
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