2019年12月24日、日本の投資環境は大きな歴史の転換点を迎えています。今、インターネット証券各社が「手数料ゼロ」という驚天動地の戦略を掲げ、文字通り背水の陣で激しい火花を散らしているのです。かつては収益の柱であった売買手数料を自ら手放すという、一見すると無謀にも思えるこの「消耗戦」は、投資家たちの間で大きな注目を集めています。
事の発端は、2019年12月02日にauカブコム証券が打ち出した信用取引手数料の撤廃でした。これに呼応するように、投資信託や現物株の取引までもが「無料化」の波に飲み込まれ、わずか3週間という異例の速さで業界の常識が塗り替えられました。SNS上では「ついにこの時が来たか」「手数料を気にせず取引できるのは嬉しいけれど、証券会社の経営は大丈夫なのか?」といった、期待と不安が入り混じった声が溢れています。
わずか「1本」を競うETF激戦!加速する横並びの背景
2019年12月23日時点で、auカブコム証券は国内上場投資信託(ETF)を業界最多水準の100銘柄まで無料化すると決定しました。これに対し、楽天証券が99本で追い上げるなど、もはや「1本差」を争う極限のデッドヒートが繰り広げられています。ETFとは、特定の株価指数に連動するように運用される投資信託で、株式のようにリアルタイムで売買できる便利な商品ですが、そのコストさえもゼロになる時代が到来しました。
なぜ、ここまで各社が過剰に反応するのでしょうか。それは、ネットの世界では顧客が数クリックで簡単に資金を他社へ移動できてしまうからです。数日の対応の遅れが致命的な顧客流出を招くという恐怖心が、各社をこの過酷なレースへと駆り立てています。マネックス証券のトップが、滞在先の米国から深夜に電話で無料化を指示したというエピソードからも、現場の凄まじい緊張感が伝わってきます。
「副収入」にも忍び寄る影と新時代の収益モデル
手数料をゼロにしても経営が成り立つ背景には、信用取引の「金利収入」や、投資信託を保有し続ける際にかかる「信託報酬」という継続的な収益があります。信託報酬とは、いわば投資商品の「管理費」のようなものですが、2020年01月にはこのコストを世界最低水準に抑えた新商品の登場も控えています。つまり、証券会社にとっては、頼みの綱である「副収入」までもが目減りしていくという、極めて厳しい局面にあるのです。
各社は今、生き残りをかけて模索しています。auカブコムはデータビジネスへの転換を狙い、SBI証券は企業向けの法人ビジネスの拡大を急いでいます。しかし、現時点では決定的な収益の柱は見えていません。私個人としては、この「安さ競争」は利用者にとって短期的には大きなメリットですが、サービスの質の低下や企業の健全性を損なうリスクを孕んでいると感じます。無理な無料化は、巡り巡って投資家への不利益に繋がる可能性も否定できません。
かつて銀行業界が再編を経て口座維持手数料の検討を始めたように、ネット証券業界もまた、現在の5社体制からさらなる統合や淘汰が起こる未来が、すぐそこまで来ているのかもしれません。2019年12月24日、私たちはまさに、これまでの「当たり前」が崩壊し、新しい金融の形が生まれる瞬間に立ち会っているのです。
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