投資の世界に、今まさに激震が走っています。かつて米国のベストセラー『フラッシュ・ボーイズ』にて、超高速で取引を繰り返す業者(HFT)は「プレデター(捕食者)」と例えられました。2019年11月現在、日本の株式市場においても、スピードに劣る個人投資家を標的としたかのような不穏な動きが表面化しています。
こうした背景には、市場プレイヤー同士の過酷な競争が生んだ「歪み」が潜んでいるようです。SNS上では「手数料がタダになるのは嬉しいけれど、その裏で自分の情報が売られるのは怖い」といった不安の声や、「結局、プロの餌食にされるだけではないか」という批判的な意見が相次いでいます。
米国から押し寄せる「手数料ゼロ」の波とネット証券の焦り
2019年10月、米ネット証券最大手のチャールズ・シュワブが株式売買手数料の無料化を断行しました。これに呼応するようにTDアメリトレードなども追随し、米国では手数料ゼロが標準となりつつあります。この動きは、日本のネット証券各社にとっても決して他人事ではなく、強い危機感を抱かせています。
証券会社が仲介手数料を無料にするためには、別の場所で収益を確保しなければなりません。そこで浮上しているのが、HFT業者に個人の注文データを流し、その対価としてリベートを受け取る「ペイメント・フォー・オーダーフロー」という仕組みです。これこそが、手数料無料化を実現するための原資となっているのです。
ここで専門用語を解説しましょう。HFT(ハイ・フリークエンシー・トレーディング)とは、コンピューターを用いて1秒間に数千回もの高頻度な売買を行う「超高速取引」を指します。彼らにとって、注文の偏りが見えやすい個人投資家のデータは、利益を上げるための極めて貴重な「資源」となるのです。
加速するHFT業者との密月と個人投資家への試練
2019年11月上旬、世界有数のヘッジファンドであるツーシグマ・インベストメンツの幹部が、国内ネット証券を訪問しました。彼らの狙いは、日本の個人投資家が持つ膨大な売買データです。ネット証券側も、生き残りのためにデータを外販せざるを得ないという、背に腹は代えられない実情を明かしています。
こうした動きは、東京証券取引所を通さない「私設取引システム(PTS)」を舞台に具体化しようとしています。ジャパンネクストPTSなどは、2020年春にもHFT業者から徴収した手数料の一部をネット証券に還元する仕組みを導入する構えです。これにより、証券会社とHFT業者の蜜月関係はさらに深まるでしょう。
機関投資家と異なり、個人投資家は価格の変動に対して比較的寛容だと見なされています。そのため、HFT業者はリベートを支払ってでも個人の注文を先回りし、利益を得ようと画策します。これは、まるで「竹やり」で「レーザー砲」に立ち向かうような、圧倒的な情報格差と技術格差を強いる不平等な戦いです。
個人的な見解を述べさせてもらうなら、投資家にとって「目先のコストゼロ」は魅力的ですが、その代償として市場の透明性が失われることは長期的には大きな損失です。日本市場の強みである「個人の多様な参加」を守るためには、金融庁を含む関係者がこの歪んだ構造に対し、早急にメスを入れるべきでしょう。
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