2020年の東京オリンピック・パラリンピック開幕が近づき、日本中が興奮に包まれています。世界中から視線が集まる聖火リレーは、走る人々の熱い思いだけでなく、地域の「いま」を世界へアピールする絶好のチャンスです。SNSでも「いよいよ始まる実感が湧いてきた」「地元の伝統が世界に知られるのは嬉しい」といった歓喜の声が溢れており、開催に向けて各地の期待感は最高潮に達しているでしょう。
かつて鋳物(いもの)産業で栄えた埼玉県川口市には、1964年の東京五輪で実際に使用された旧国立競技場の聖火台が存在します。鋳物とは、高温で溶かした金属を型に流し込んで器物を作る伝統的な技術のことです。この歴史的な聖火台は東日本大震災の復興シンボルとして東北各地を巡回していましたが、2019年秋に念願の里帰りを果たして大きな話題を呼びました。
この聖火台の誕生には、職人たちの命がけのドラマが隠されています。当時、鋳物師だった父親が生涯最後の仕事として製造を引き受けたものの、納期の1カ月前にトラブルで失敗してしまいました。そのショックから父親は急逝を遂げますが、遺志を継いだ兄が周囲の協力を得て見事に完成させたのです。一連の奇跡を間近で見てきた弟の鈴木昭重さんは、今回の五念の聖火ランナーに選ばれました。
埼玉県の聖火リレーは2020年07月07日に川口市から幕を開けます。近年は退潮傾向が続いていた地域の伝統産業にとって、今回のリレーは再び脚光を浴びる素晴らしい機会になるに違いありません。鈴木さんは「父や兄、そして聖火台に関わったすべての職人の思いをトーチに込めて走りたい」と力強く意気込みを語っており、その熱い言葉に胸が熱くなります。
2020年03月に福島県をスタートする聖火は日本全国を巡り、2020年07月にいよいよ首都圏で最終盤を迎えます。ルートに選ばれた自治体は歓迎ムード一色となり、沿道イベントの企画に奔走している状況です。東京合羽橋商店街振興組合の本健太郎理事長も「自分の店の前を聖火が通るなんて一生に一度の経験だ」と大興奮で、地元の小学生と街の魅力をPRする方策を検討しています。
被災地からの復興とパラリンピックへの熱いアイデア合戦
さらに、聖火リレーを機に力強い復興を世界へ発信しようと意気込むのが、2019年秋の台風19号で深刻な被害を受けた神奈川県箱根町です。主要観光ルートである箱根登山鉄道は一部区間の運休が続いており、観光業への打撃を乗り越えるための起爆剤として、今回の聖火リレーには大きな期待が寄せられています。
箱根町では芦ノ湖近くの箱根駅伝往路ゴール付近が出発地に決定しました。テレビ中継を通じて冬の駅伝とは異なる「夏の箱根」の美しい景色を届けるとともに、伝統文化を表現する演目も披露される予定です。山口昇士町長が目指す「将来に語り継がれる聖火リレー」の実現に向け、街の知恵を結集して立ち向かう姿には、メディアとしても心からエールを送りたくなります。
一方で、オリンピックのルート外となった自治体をも巻き込んで熱を帯びているのがパラリンピックの聖火リレーです。こちらは希望する市区町村が独自の「採火(さいか)式」を開催できるため、地域独自の文化をアピールする絶好の舞台となります。採火とは儀式やイベントのために火を起こして集めることで、その手法は各自治体の自由となっています。
千葉県では「加曽利貝塚で縄文式の火起こしをしたら面白いのでは」といったユニークなアイデアが飛び交っており、参加を予定する自治体は全国で700を超えました。オリンピックだけでなくパラリンピックも含め、地域の個性を世界に発信するこの大イベントが、日本全国をより元気にしてくれることを期待して止みません。
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