米国とイランの全面衝突が回避される見通しとなり、株式市場には地政学リスクの緊張が和らいだことによる安心感が広がっています。2020年1月9日のダウ工業株30種平均は前日比211ドル高の2万8956ドルで取引を終えました。間近に迫る企業決算の発表を前に、投資家の視線が個別の銘柄へと移るなか、とりわけ健康や医療に関連する「ヘルスケア株」の力強い躍進が市場の視線を集めている状況です。
市場では「来週開催されるヘルスケア会議から目が離せない」と早くも大きな話題を呼んでいます。SNS上でも『今年のヘルスケアセクターは一味違う動きを見せそうだ』と期待を寄せる声が目立ち始めました。この会議は米金融大手のJPモルガン・チェースが主催する大規模なイベントであり、製薬・医療機器企業や投資家が一堂に会します。業界を揺るがすM&A(企業の合併・買収)が発表される場としても有名で、1月の市場を牽引する起爆剤として注目されています。
これまで医療分野の収益は、政府の政策や大統領選挙の動向に大きく揺さぶられてきました。過去の2016年における選挙戦では高額な薬価への非難が集中し、収益悪化への警戒感から主要な株価指数であるS&P500のヘルスケア部門が投票前の3ヶ月で1割以上も急落した経緯があります。現在のアメリカ大統領選でも、野党・民主党の有力候補が「国民皆保険制度」の導入を訴えており、公的保険が価格交渉権を持つことで薬価が引き下げられるのではないかという懸念が2019年前半の株価を押し下げていました。
しかし、2019年後半からヘルスケア株は驚異的な粘り強さを見せています。2019年10月から直近までに同指数は18%も上昇し、市場全体の平均である13%を大きく引き離しました。大統領選という政治的な不透明感を抱えながらも、ハイテクや消費関連といった並み居る花形セクターを抑えて業種別の上昇率で首位に躍り出た背景には、この業界が持つ圧倒的な「国策としての需要」と「成長性」があると考えられます。
その要因の第一に挙げられるのが、米国内で進む急速な高齢化と人々の健康意識の劇的な高まりです。米公的医療保険センターの調査によれば、2018年の米国の医療費支出は前年比4.6%増の3兆6000億ドルという膨大な規模に達しました。民間調査機関の予測では、この市場は今後も膨らみ続け、2027年には5兆9000億ドルにまで拡大する見通しです。景気の波に左右されにくい医療ニーズは、中長期的に見ても極めて強固な投資の足場となるでしょう。
さらに投資家を魅了しているのが、最先端のITやAI(人工知能)の技術が医療現場に融合し始めている点です。大手製薬会社のメルクが新薬開発のためにAIスタートアップ企業とタッグを組むなど、テック企業との連携が加速しています。現在ラスベガスで開催中の世界最大級のデジタル技術見本市「CES」でも、身につけて健康状態を測定するウェアラブル端末や睡眠の質を高めるテクノロジーが主役に躍り出ており、医療用デジタル機器市場は2020年に前年比16%増となる見込みです。
私は、この「ヘルスケア」と「テクノロジー」の融合こそが、今後の株式市場における最大の成長テーマになると確信しています。これまで医療分野は規制の多さからデジタル化が遅れていると指摘されてきましたが、それは裏を返せば、これから開拓されるフロンティアが膨大に残されていることを意味するからです。かつて金融とITが融合した「フィンテック」が市場の勝者と敗者を鮮明に分けたように、これからはヘルスケアの世界でも技術革新に乗り遅れた企業は淘汰される厳しい競争が始まるでしょう。
SNSでは『どの企業が次のアップルやグーグルになるか見極めたい』といった個人投資家の熱い書き込みが増加しています。これからのヘルスケア投資は、単に製薬会社の業績を眺めるだけでなく、どの企業が優れたIT技術を取り込み、新しい医療の形を創造できるかを見極める「目利き力」がこれまで以上に試される時代になりそうです。大きなゲームチェンジが起きつつある今、このセクターに注目しておく価値は十分にあります。
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