自然保育で子どもの自主性が驚くほど伸びる!里山再生と移住者増加をもたらす信州の最先端幼児教育とは?

原生的な大自然と賑やかな都市との中間に位置し、古くから人々の暮らしを支えてきた「里山」がいま、形を変えて大きな注目を集めています。過疎化や高齢化によって人の手が入らなくなった山林を、幼児教育や保育の舞台として蘇らせる取り組みが全国で活発化しているのです。大自然の懐に飛び込み、五感を使って遊びながら学ぶ体験は、子どもたちの心身をたくましく鍛え上げるだけでなく、自ら考えて行動する自主性を育む最高の機会となります。

インターネット上でも「ゲームや既成のおもちゃがないからこそ、子どもが自分で遊びをクリエイトする力が身につきそう」「自然の中で泥だらけになって遊ぶ経験は、何物にも代えがたい財産になる」といった、自然保育の可能性を絶賛する声が数多く寄せられています。管理された公園の遊具とは異なり、里山には正解がありません。だからこそ、子どもたちは無限の想像力を働かせ、主体的に自然と関わっていくことができるのでしょう。

雪がうっすらと積もり、最低気温が氷点下4度を記録した2019年12月下旬、長野県伊那市にある高遠第2・第3保育園を訪ねました。厳しい寒さの中でも、園児たちは元気いっぱいに「秘密基地を作ったの、見に来て!」と山の上へと案内してくれます。ふかふかの落ち葉の上に寝転がったり、集めた木の枝を暖炉に見立ててごっこ遊びに興じたりと、寒さを忘れて夢中で遊ぶ姿が印象的です。

保育士は時折「気をつけてね」と優しい視線を送るものの、子どもたちの行動を頭ごなしに制止することはしません。園児が主役となる自由な時間を、温かく見守る姿勢が徹底されているのです。この園では、園舎のすぐ裏手に広がる里山をフルに活用した自然保育に注力しており、時には山を登って尾根を歩き、森を越えて2時間以上もお散歩を続けることもあるといいますから驚きです。

このような先進的な試みを始めた背景には、少子化に伴う深刻な休園の危機がありました。入園者が定員の5割を割り込む事態に陥っていた2014年ごろ、地域住民から「地元の豊かな自然を強みにして、特色ある自然保育に取り組んでみてはどうか」という貴重な提案がなされたのです。そこから裏山の地権者や保護者が一丸となり、生い茂るヤブを刈り払うなどして、子どもたちが安全に駆け回れるフィールドを作り上げました。

園と地域が二人三脚で教育環境を整えた結果、都会からの移住者を中心に新しい入園希望者が劇的に増加し、見事に休園の危機を脱することに成功しました。2020年1月現在では、全園児32人のうちなんと20人以上を移住者の子どもたちが占めています。下島直美園長は「ここでは山そのものが先生です」と語り、大人は安全のための最低限のサポートに徹し、子ども自身が挑戦して気づくプロセスを大切にしています。

こうした現場の熱意を、行政も強力にバックアップしています。広大な森林面積を誇る長野県では、2015年に独自の自然保育認定制度である「信州やまほいく」を創設しました。この制度は、豊かな自然環境を単なる観光資源や産業の場としてだけでなく、次世代を担う子どもたちの教育基盤としても積極的に活用することを目指した、非常に画期的で素晴らしい先進事例であると感じます。

この制度の認定を受けると、園に専門家を招いて質の高い実地指導を受けられるほか、屋外フィールドの整備費や人件費の一部に対して補助金が交付されます。屋外活動の時間に応じて2つの区分が設けられており、週に5時間以上を屋外で過ごす「普及型」と、週に15時間以上を自然の中で過ごす「特化型」に分類されます。2020年1月までに、県内で実に210もの団体がこの認定を受け、活動を広げています。

自然保育がもたらす恩恵は、教育効果だけに留まりません。一つは、高齢化で放置されていた果樹園や桑園などの荒廃地に在来植物を復活させ、子どもの遊び場として見事に再活用している点です。そしてもう一つが、地方が抱える過疎化問題への特効薬になっている点です。実際に、長野県の「特化型」の園に通う全園児のうち、なんと約83%が移住者の子どもたちで占められているという驚きのデータも出ています。

濃密な自然や温かい地域コミュニティの中で子育てをしたいと願う保護者にとって、この環境は非常に魅力的な選択肢となっています。こうした動きは、2015年に認定制度を始めた鳥取県や、2017年に追随した広島県など他自治体へも波及しています。子どものケガへの配慮など安全管理の課題はあるものの、地域の魅力を高めて地方創生へと繋げるための大きな期待が寄せられているのです。

一方で、古くから小中高校などの教育現場で活用されてきた「学校林」は、維持管理の重荷から減少傾向にあります。2016年の調査では約2500校が学校林を保有していましたが、2011年に比べて7%減少しました。さらに、全体の約19%にあたる605カ所が今後縮小や廃止を検討しており、その多くが「教職員や保護者にかかる管理負担の大きさ」を理由に挙げています。

環境教育学を専門とする神戸教育短期大学の片山雅男教授は、里山が持つ「子どもが多少乱暴に扱っても復活する寛容さ」を評価しつつも、手入れを怠ると倒木やヤブが増えて危険地帯化すると指摘します。子どもたちの安全を守り、貴重な教育資源を持続させるためには、学校現場任せにせず、行政や専門家と連携した持続可能な管理体制の構築や、専門人材の育成が急務だといえるでしょう。

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