中国のコーヒー市場で、驚異的なスピードで勢力を拡大している新興カフェチェーンをご存知でしょうか。2017年6月に設立された「瑞幸珈琲(ラッキンコーヒー)」の勢いが止まりません。なんと2018年1月1日に北京へ1号店をオープンしてから、わずか2年足らずで4507店舗(2019年12月31日時点)にまで達しました。これまで中国国内で不動の地位を築いていたアメリカのスターバックスが2019年9月30日時点で展開していた4125店舗を上回り、ついに店舗数で逆転劇を演じた模様です。
SNS上でも「アプリで注文すれば待たずに受け取れるのが神すぎる」「割引クーポンが毎回お得でスタバに行かなくなった」といった利便性やコスパを絶賛する声が相次いでいます。人気の理由は、スマートフォンを駆使した独自の注文システムにあります。利用者は事前にアプリで決済を済ませるため、店頭で行列に並ぶストレスが一切ありません。商品は店舗でスムーズに受け取るか、自宅や職場へ届けてもらうかを自由に選択できます。現代のライフスタイルに完璧にマッチした仕組みと言えるでしょう。
さらに、驚くべきはその価格戦略です。「3杯買ったら1杯無料」といった破格のキャンペーンを頻繁に実施しており、各種割引を活用すればスターバックスよりも10元(約150円)ほど安く購入できます。これほど低価格でありながら「店舗のデザインがおしゃれで、味も本家スタバに引けを取らない」と多くの消費者が太鼓判を押しています。徹底的なコスト削減を可能にしているのが、客席を10席未満に抑えた「テイクアウト専門に近い小型店舗」を中心としたスマートな出店スタイルです。
多角化する戦略と赤字拡大が懸念される今後の展望
2019年5月17日にはアメリカのナスダック市場への上場を果たし、乗りに乗る同社が次に仕掛けたのが、中国で大ブームとなっているタピオカミルクティーをはじめとしたティードリンク市場への参入です。「小鹿茶(ラッキンティー)」という新ブランドを立ち上げ、2019年11月1日に上海や北京などの主要28都市で42店舗を一斉にオープンさせました。コーヒー事業で培ったアプリ主導のビジネスモデルと、採算度外視の割引攻勢を武器に、紅茶市場でもシェアを強奪する構えを見せています。
しかし、この怒涛の快進撃の裏側には、無視できない巨大な影が潜んでいます。ラッキンコーヒーの2019年7月1日から2019年9月30日までの四半期決算では、最終損益が5億3000万元(約79億5000万円)の赤字を記録しました。前年同期の4億8000万元の赤字から、さらに損失が膨らんでいます。これはいわゆる「プラットフォーム戦略」と呼ばれる手法で、まずは赤字を出してでも市場のシェア(占有率)を圧倒的に握り、競合を排除した後に利益を回収するという中国のIT企業に多い経営手法です。
この壮大な投資競争には、大きな罠も存在します。数年前に中国を席巻したシェア自転車サービスも、同じように過剰な先行投資を続けた結果、供給過多やサービスの質の低下を招き、最終的には大半の企業が倒産に追い込まれました。私個人としては、ラッキンコーヒーの手軽さや美味しさは素晴らしいイノベーションだと評価する反面、赤字を垂れ流し続けるビジネスモデルがいつまで持続可能なのかは疑問が残ります。身の丈に合わない拡大路線は、かつての崩壊劇を想起させます。
2019年1月から9月期までの累計では売上高29億元を記録したものの、純損益は23億元の赤字という綱渡りの状態です。競合を圧倒する便利さと引き換えに、膨らみ続ける負債をどうコントロールしていくのでしょうか。このまま中国の珈琲文化を塗り替える覇者となるのか、それともバブルのように弾けてしまうのか。実力とリスクが背中合わせの同社にとって、2020年は自らの真価と持続可能性を証明するための、極めて重要な勝負の1年になることは間違いありません。
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