大手化学メーカーの旭化成が、日本の繊維産業を支える一大拠点である北陸産地との連携を一段と強めています。同社は2021年3月期の北陸産地における取引額について、前の期と比べて5%から10%ほど増加させる計画を明らかにしました。世界的に高品質なテキスタイル(織物や編物)の生産地として知られる北陸の技術力と、旭化成が持つ革新的な素材開発力を掛け合わせることで、新たな市場の開拓を狙う意欲的な姿勢が伺えます。
この増収計画の牽引役として特に期待を集めているのが、同社が誇る人工皮革の「ラムース」です。ラムースとは、極細のポリエステル繊維と水系ポリウレタンを組み合わせて作られた、環境に優しい高品質なスエード調の人工皮革を指します。今回の戦略では、この優れた素材を高級車のカーシートをはじめとする資材系の分野へ重点的に投入し、北陸の加工技術と融合させて取引量を一気に拡大させる方針が示されました。
一方で、2020年3月期の取引額に関しては、前の期と比べてほぼ横ばいで推移する見込みとなっています。その背景には、今シーズンに日本を襲った異例の暖冬が影響を及ぼしました。冬向けの婦人服の売れ行きが大きく落ち込んだことで、旭化成の主力製品であり、高級スーツの裏地やインナー素材として重宝されるキュプラ繊維の「ベンベルグ」の需要が一時的に低迷してしまったのです。
しかし、この苦境を救ったのがスポーツ関連素材や資材系分野の目覚ましい躍進でした。ベンベルグの落ち込みをカバーするようにこれらが大きく数値を伸ばしたほか、アウター向けの生地に対しても海外市場から熱い視線が注がれており、取引は非常に堅調です。今回の発表を受けてSNS上では、「日本のものづくりを支える北陸の企業が活気づくのは嬉しいニュースだ」「ラムースの車への採用がもっと増えてほしい」といった期待の声が多数寄せられています。
近年、アパレル業界は気候変動による暖冬のリスクに常に晒されており、衣料用繊維だけに頼るビジネスモデルは限界を迎えています。だからこそ、旭化成が自動車の内装などの「資材系」へシフトを図る戦略は極めて合理的で、先見の明があると感じます。優れた伝統技術を持つ北陸の産地が、最先端の産業資材の供給地へと進化を遂げることは、日本の製造業全体の競争力を高める素晴らしい一歩になるに違いありません。
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