洋服は単なる衣類ではなく、私たちの人生の記憶を紡ぐ大切なパートナーなのかもしれません。現在、東京都現代美術館ではデザイナーの皆川明氏が手掛けるブランド「ミナ ペルホネン」の歩みを振り返る企画展「ミナ ペルホネン/皆川明 つづく」が2020年2月16日まで開催されています。会場の一室には、持ち主の深い思い出が綴られた文章とともに、愛用され続けた洋服たちが誇らしげに並んでいるのです。
この展示は、愛用者からエピソードを募り、実際に着用されていた洋服を借り受けて実現しました。亡き父との最後の家族写真で着ていた服や、幼い娘を必死に助けた際に汚れた思い出のコートなど、エピソードを読むだけで当時の光景が鮮やかに目に浮かびます。SNSでも「展示を見て涙が出そうになった」「服に宿る物語に胸が熱くなる」といった感動の声が続々と上がっており、多くの人々の心を揺さぶっているようです。
同館が存命するデザイナーの大規模な個展を開催するのは、2000年の三宅一生氏以来で、実に20年ぶりの快挙となります。会場は長年の熱心なファンから、今回初めてブランドを知ったという外国人観光客まで、連日大変な賑わいを見せています。現代のファッション業界は、シーズンごとに流行が目まぐるしく移り変わり、大量に消費されるのが一般的です。しかし、ミナ ペルホネンのものづくりはその常識とは一線を画しています。
彼らが目指すのは、生地から独自にデザインし、何年も繰り返し愛用できる服です。服飾史家である深井晃子氏も「シーズンや年齢を問わず、現代社会が重視するサステイナビリティの価値観と一致する」と絶賛しています。このサステイナビリティとは「持続可能性」を意味する言葉で、地球環境や資源を壊さず、未来にわたって豊かな社会を維持していこうという考え方であり、現代の重要なキーワードです。
皆川氏が1995年に前身となるブランドを立ち上げた際、「せめて100年は続くブランドに」という強い願いを込めました。ブランド名の「ミナ」はフィンランド語で「私」を意味しており、作り手にとっても着る手にとっても「私の服」と感じられる特別な日常服であってほしいという想いが根底にあります。私は、この「100年続く」という哲学こそが、目先の流行に流されない唯一無二の美しさを生み出す源泉なのだと感じます。
皆川氏は「情熱から生まれるこだわりこそが物の中に宿る生命力であり、使い手の愛着となって長く残る時間を作る」と語ります。その言葉通り、これまでに作られた独自の生地は3000種類以上です。手書きの線や美しい色彩の重なり、繊細な立体刺繍の図案を、職人と二人三脚で形にしてきました。例えば、2000年に誕生した定番図案「タンバリン」は、これまでに483種類もの異なる生地が生み出されています。
この図案はフリーハンドで描かれた円の縁に、形や膨らみが少しずつ異なる25個のドットが刺繍されています。完全な左右対称ではない「不完全さ」こそが、生きている証だと考えているからです。これを機械で表現するため、神奈川県愛川町の神奈川レースでは、図案を6倍に拡大して一針ずつの動きをデータ化する職人技を発揮しました。機械生産でありながら手仕事の温かみを感じる背景には、気の遠くなるような試行錯誤があります。
さらに、5色の楕円形が並ぶ「ジェリービーンズ」という生地では、13種類もの版を駆使して、原画の色の重なりや輪郭のかすれを再現しています。彼らは端切れさえも無駄にせず、2010年には余り布のパッチワーク製品を扱う店舗を京都と東京にオープンさせました。全ての服で修理を受け付けるなど、愛用者がいつまでも着続けられる環境を整えています。この姿勢は衣服を使い捨てにしない素晴らしい模範と言えるでしょう。
ミナ ペルホネンの記憶を共有するものづくりは、今や世界中から熱い視線を浴びています。デンマークのテキスタイルメーカー「クヴァドラ」や、フィンランドの家具ブランド「アルテック」など、海外の名だたる企業が協業を申し出ているのです。利便性や効率ばかりが追求される現代だからこそ、一着の服を愛し、物語を紡いでいくという贅沢な体験が、私たちの心に最も深く響くのかもしれません。
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