和食定食チェーンでおなじみの大戸屋ごはん処を展開する大戸屋ホールディングス(HD)が、既存店の苦戦を打破すべく、新しいコンセプトを打ち出した新型店を2019年6月に東京都内へオープンさせました。従来の店舗のイメージを一新し、特に女性客や「おひとり様」のニーズを取り込むことを目指したこの実験的な試みは、外食産業における新たな客層開拓の突破口となるか、大きな注目を集めているでしょう。
全面改装を経て新型店として生まれ変わったのは、小田急小田原線の町田駅近くにある大戸屋ごはん処 小田急町田東口店です(東京都町田市、2019年6月11日開店)。新しい店舗の店頭看板は、白を基調に多様な人々が食卓を囲むイメージへと切り替えられました。この新型店のコンセプトは「大戸家」。店内設計を担当された建築家の一瀬健人氏は、「自宅の中での食事シーンをもとにデザインした」と述べており、お客様に居心地の良いくつろぎの空間を提供することを追求した設計思想がうかがえます。
この新型店の最大の特徴は、レイアウトに合わせて「リビング」「ダイニング」「サンルーム」という、それぞれ“家”にまつわるコンセプトが設定された3つのエリアに客席が分けられている点でしょう。例えば、カフェのような雰囲気の「リビング」には、手荷物置き場を隣接させた一人用のソファ席を配置し、落ち着いた内装や照明でゆったりとした時間を過ごせるよう工夫されています。また、「ダイニング」に設けられたカウンター席は、座席とカウンターが高めに設計され、店内で調理する比率が高い大戸屋の特性を活かし、食事をしながら調理の様子を眺められるライブ感を楽しめる点が魅力的です。
従来の店舗の造りに近い明るい内装の「サンルーム」には、長いテーブル(ロングテーブル)が設けられています。一般的な店舗では向かい合って座る形式ですが、ここでは両面でテーブルの高さや座席の位置をずらすことで、隣の客と視線が合わないように配慮された点が革新的だと感じます。店舗全体の席数は70席から68席へとわずかに減ったものの、一人用の席は10席から19席へと大幅に増やされました。これにより、これまでは「飲食店に一人で入るのは抵抗がある」と感じていた客層や、若年層、女性客の食事需要を積極的に取り込みたい、という同社の強い意図が感じられるでしょう。
一つの店舗内で全く異なるコンセプトの客席エリアを取り入れるという試みは、同社が新たな店舗像を検証するための実験店としての役割を担っています。町田という立地は学生からサラリーマン、近隣住民まで客層が幅広いため、コーポレートブランド室の岩熊英一氏は「客層ごとの反応などを見ながら他の店舗への展開を検討する」とコメントされています。既存店売上高が2016年3月期から4期連続で前年を下回るなど、大戸屋HDは厳しい状況が続いており、新業態の開業と並行して、主力である大戸屋ごはん処の強化は避けて通れない課題です。
SNS上では、「一人でも入りやすい内装は嬉しい」「作業スペースとして使えそう」「自宅のリビングみたいで落ち着く」といった好意的な意見が見受けられ、特に一人客を意識した設計への反響は大きいようです。また、メニュー改定に伴い2019年4月には一部商品の価格引き上げを実施したものの、窪田健一社長は「共働きの家庭が増え、ヘルシーな定食メニューの需要は高まる」と語っています。しかし、新たな来店機会を創出するためには、商品力だけでなく、利用しやすい店舗の設計やブランドイメージの発信が不可欠であり、この実験店の成果が今後の店舗網にどのように活かされていくのか、その真価が問われることになるでしょう。

コメント