中国経済の象徴として長年信じられてきた「不動産神話」が、いま大きな岐路を迎えています。2019年の中国の実質経済成長率は前年比6.1%に留まり、2年連続で落ち込む結果となりました。その最大の引き金となっているのが、景気を牽引してきた不動産市場の深刻な冷え込みです。
象徴的な出来事が、北京に隣接する直轄市・天津市で起きています。現地では、購入したばかりの新築マンションが瞬く間にディスカウントされ、資産価値が目減りしたオーナーたちによる異例の抗議運動へと発展しました。SNS上でも「明日は我が身」「もう家は買えない」と、中間層の悲鳴が拡散されています。
購入2ヶ月で頭金の6割が消失!若者を襲う含み損の恐怖
北京の会社員である斉さんは、2019年5月に天津市郊外で110平方メートルの新築物件を約23万円(1平方メートルあたり1万4600元)で購入しました。大金をはたいて頭金を支払い、巨額のローンを組みましたが、悪夢はわずか2ヶ月後に訪れます。なんと隣の棟が大幅に値下げされて売り出されたのです。
不動産市場において、建物の形状や階層による価格差は常識ですが、今回の値下げは斉さんの部屋の時価をも大きく割り込むものでした。計算上の含み損(資産の評価額が購入時より下がった状態の損失)は一瞬で500万円以上に膨らみ、斉さんは「頭金の6割が吹き飛んだ」と激しい憤りを隠せません。
納得のいかない斉さんらは地元政府やデベロッパーへ「不当な価格破壊だ」と猛抗議を行いました。しかし、企業側はゼロ回答を貫き、政府も正当な経済活動であると一蹴。2019年12月にはあきらめムードが漂い、当初200人いたデモ参加者はわずか10人にまで激減してしまいました。
政府の「住むための家」方針と資金繰りにあえぐ開発会社
中国では不動産取引が本格化してからの20年間、地価は右肩上がりを続けてきました。そのため「家は絶対に値下がりしない」という盲信が強く、今回の下落は人々に強烈な心理的ショックを与えています。この潮目が変わった背景には、中国共産党が2016年12月に打ち出した強力な規制があります。
政府は「住宅は居住のためのものであり、投機(値上がり益を狙った短期的な売買)の対象ではない」と宣言しました。バブル崩壊と個人の借金苦を防ぐため、ローンの審査を厳格化したのです。これにより市場のマネーが急激に収縮し、買い手がつかなくなった開発会社は、原価割れを覚悟で現金回収のための値下げに踏み切らざるを得なくなりました。
編集者の視点:若者を狙った「在庫処分」の罠とこれからの中国経済
筆者は、今回の天津市の動向には強い憤りを禁じ得ません。天津市政府は2018年5月から地方出身者へ戸籍を大開放し、24万人もの若者を呼び込みました。これは一見、地方振興の美談に見えますが、実態は売れ残ったマンションの在庫を北京の若者に押し付けるための周到な罠だったと言わざるを得ないでしょう。
夢を抱いて大都市の戸籍を買い、ババを引かされた若者たちの失望は計り知れません。専門家も指摘するように、米中貿易摩擦や少子高齢化が進む2020年代の中国は、もはやかつてのような高成長を望むことは不可能です。政府は目先の不動産浮揚ではなく、若者が安心して暮らせる真の経済モデルへの転換を急ぐべきです。
コメント