新規株式公開を意味する「IPO」の市場で、今まさに驚きの地殻変動が起きています。野村証券が実施した調査によれば、2019年に上場を果たした全86社のうち、なんと約22%に相当する19社が最終赤字の状態で株式公開に踏み切りました。これは前年の11社と比較すると約7割増という急激な伸びを示しており、3年連続で増加の一途をたどっています。「赤字の会社が上場なんてできるの?」と疑問に思う方も多いかもしれませんが、現在の株式市場はその常識を覆すほどの熱気に包まれているのです。
かつて赤字上場といえば、莫大な研究開発費が先行するバイオ系スタートアップ企業が定番でした。しかし、2019年の顔ぶれを見ると主役は完全に「情報・通信」へとシフトしており、実に14社を占めています。特に目立つのが、インターネットを介して必要なソフトウェアを利用できる「SaaS(サース)」や、定額料金を支払ってサービスを継続利用する「サブスクリプション」を展開するIT企業です。これらのビジネスモデルは、初期投資さえ回収できれば将来的に極めて高い利益率を誇る点が特徴となっています。
例えば2019年10月25日に東証マザーズへ上場した「BASE」は、個人が手軽にネットショップを開設できるプラットフォームとして人気を集めています。売上高は驚異的な右肩上がりを記録しているものの、ユーザーを爆発的に増やすための広告宣伝費などが重なり、赤字での上場となりました。これに対してSNS上では、「生活に身近なサービスだから応援したい」「将来への投資と考えれば納得の赤字」といった前向きな応援コメントが多数寄せられており、ユーザー層からの期待の高さが伺えます。
時価総額1000億円級の大型上場も!投資家が「未来の成長」に賭ける理由
さらに2019年は、名刺管理サービスの「Sansan」や会計ソフトの「freee」といった、時価総額が1000億円規模に達する大型の赤字上場も世間を賑わせました。これほど巨額の赤字企業が受け入れられる背景には、目先の利益ではなく将来の爆発的な成長を見込んで「取引所や投資家の許容度が高まっている」という市場の心理があります。ネット上でも「サブスク型は顧客が定着すれば後から利益がついてくる」「今のうちに仕込んでおきたい銘柄だ」と、投資家たちの熱い視線が注がれていました。
しかし、この「赤字容認ブーム」に編集部として手放しで乗っかるのは少し危険だと感じます。確かに成長のための先行投資は重要ですが、それはあくまで「いつか確実に黒字化する」という緻密なロードマップがあってこそ成り立つものです。実際に海外へ目を向けると、2019年5月10日にニューヨーク証券取引所へ上場した米ウーバー・テクノロジーズは赤字を脱却できず株価が低迷しており、シェアオフィス大手のウィーカンパニーにいたっては上場延期に追い込まれました。
海外の厳しい現実は、決して対岸の火事ではありません。日本国内でも、上場後に描いた通りの成長ストーリーを示せない企業が増えてしまえば、市場のあたたかい空気は一瞬にして冷え込んでしまうでしょう。赤字上場は、企業にとってはゴールではなく、市場から突きつけられた「未来への挑戦状」です。私たち投資家や読者も、単なる話題性やブームに流されることなく、その企業が本当に持続可能な価値を生み出せるのかを冷静に見極める目を持つことが求められています。
コメント