欧州の自動車業界で歴史的な大転換が巻き起こっています。フランスの自動車大手グループPSAと、欧米のフィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)が経営統合に合意しました。このニュースは、SNS上でも「世界4位のメガメーカー誕生か」「業界再編が加速する」と大きな反響を呼んでいます。2021年にはオランダに折半出資の新会社が設立される予定で、年間販売台数は約870万台に達する見込みです。注目すべきは、PSAの筆頭株主であるフランス政府がこの動きに賛成へと回った点でしょう。
実はフランス政府は、2019年5月にFCAからルノーへ持ちかけられた統合交渉の際、役員の人事や決議の時期にまで細かく注文を付け、わずか10日で破談に追い込んだ過去があります。この過度な口出しには、国内外のメディアから「介入主義の限界」と厳しい批判が浴びせられました。マクロン政権は、本来は外資を呼び込む親ビジネスの姿勢をアピールしているため、この批判は大きな痛手となったに違いありません。今回のPSAの統合を認めざるを得なかった背景には、これ以上の批判を避けたいという強い政治的打算が見え隠れします。
伝統と国策に翻弄される自動車メーカーの宿命
フランス政府がルノーとPSAで全く異なる対応を見せた背景には、両社に対する「思い入れ」の差も存在します。19世紀から続くプジョー家が率いるPSAに対し、政府が出資したのは2014年からのことです。一方でルノーは戦後に完全国有化された歴史があり、政府側には「自分たちが守ってきた」という強い自負があります。さらにルノーは日本の日産自動車や三菱自動車とアライアンス(戦略的同盟)を組んで世界トップ3の一角を占めているため、当時の日産の動向を伺いながら、より慎重にならざるを得ない事情もありました。
フランスでは、歴代の政権が企業の雇用削減や海外移転を阻止すべく口を出してきた伝統があり、国民も政府の強いリーダーシップを期待する傾向があります。しかし、経済の合理性よりも政治的な思惑が優先される姿勢には、私は大きな危うさを感じずにはいられません。今回の統合承認の裏でも、政府は国内の生産拠点や雇用の維持を条件として突きつけています。これにより新会社は、今後不可欠となる構造改革(リストラ)をフランス国内で実施できなくなるという足かせをはめられた形になります。
このように政治に翻弄されるフランスの介入姿勢は、グローバル競争を生き抜く企業にとって長期的なリスクとなり得ます。そしてこの問題は、決して遠い欧州だけの話ではありません。ルノーと深い同盟関係にある日産自動車をはじめ、フランスと深く関わる日本企業にとっても、将来の経営戦略を揺るがしかねない大きな不安要素として注視していく必要があるでしょう。
コメント