皆さんは、何もないはずの空間に触れて「壁」を感じたことはありますか。まるで意思を持っているかのように逃げ回る帽子に翻弄され、困惑する男性の姿に笑い転げた経験はありますか。兵庫県尼崎市を拠点に活動するマイム俳優、いいむろなおきさんが生み出す舞台は、まさに魔法そのものです。2020年2月3日現在、その類まれなる表現力は観客を魅了し続けています。
いいむろさんは自らを「関西生まれ、おフランス育ち」と表現します。劇場で身構えている観客のガードを、関西流の笑いのエッセンスで巧みに解きほぐし、一気に作品の世界へと引き込む手腕は圧巻です。不条理な出来事に巻き込まれ、一生懸命に翻弄されるキャラクターを演じることで、観客との間に深いコミュニケーションを生み出しているのでしょう。
身体能力の極致とフランスでの研鑽
彼の原点は、人形劇団を主宰する両親のもとで育った幼少期にあります。高校生の時にマイムの神様と謳われたマルセル・マルソーの舞台に衝撃を受け、わずか19歳で単身フランスへ渡りました。マルソー氏の教えを直接受け継いだその技術は、たゆまぬ努力の結晶です。
「マイムの技術は、単純に練習量に比例する」と本人が語る通り、その身体制御能力は人間離れしています。随意筋を完全にコントロールし、特定の部位だけを動かす訓練を積み重ねることで、重力すら感じさせない歩行から、0.1秒単位のスローモーションまでを自在に操るのです。空間に触れる動作においても、手先の27本もの骨すべてを意識するという精緻さは、もはや芸術の域に達しています。
ノンバーバル演劇で切り拓く新たな可能性
セリフのないマイムは、観客が自らの記憶や想像力という「余白」を埋めることで完成する、共同作業のような芸術です。日本国内では大道芸のイメージが強いマイムですが、いいむろさんは人間の内面や物語を深く掘り下げた舞台を目指しています。
世界デルフィック大会での金メダル獲得に加え、京都で8年を超えるロングランを記録する「ギア」への出演もその功績の一つです。言葉を必要としない「ノンバーバル演劇」として、20万人以上の観客を動員した実績は、マイムが持つ計り知れない可能性を証明しています。SNS上でも「言葉がなくても全てが伝わってくる」「笑いの中に深い感動がある」といった称賛の声が絶えません。
私個人としても、技術的な凄みだけでなく、観客一人ひとりの想像力に寄り添う彼の姿勢に、演劇の原点を感じずにはいられません。日常の些細な動きを魔法に変えるいいむろさんの舞台は、今後も私たちの心を大きく揺さぶり続けてくれるはずです。
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