大阪の街角には、時代を超えて語り継ぎたい歴史が眠っています。2020年2月5日現在、皆さんは近代日本画の巨匠として知られる堂本印象の、若き日の意外な一面をご存知でしょうか。1891年に生まれ1975年に没した印象は、21歳を迎えた1912年(大正元年)、ある一冊の美しい詩画集を世に送り出しました。それが「いの字絵本 恋の都大阪の巻」です。
この作品は、船場の商人である龍村平蔵の工房で図案を手がけていた若き日の印象が、大阪という街の情景を鮮やかに切り取ったものです。冒頭は、京都から伏見を経て大阪へ下る少女の視点で描かれています。母に抱かれながら見た淀川の流れを「長い天の河」と例える表現には、少女の無垢な感性が映し出されています。まさに大正の大阪が持つロマンチシズムが、ここから始まっています。
創作と記憶が交差する「恋の都」の物語
本作には、印象の創作による物語も織り交ぜられています。例えば、道頓堀で見かけた「がってん首」という郷土玩具を、心中した姉の思い出と重ね合わせる一節。これはフィクションですが、当時の大阪という街が、どこか哀愁と情熱が入り混じる「心中の都」として認識されていた背景が見て取れます。古典芸能の精神を現代の感性で捉え直す手法は、非常に巧みだと言わざるを得ません。
SNS上でも、「大正時代の大阪の空気が写真ではなく絵画で蘇る感覚がたまらない」「当時の女学生の姿や電車の風景が、現代の我々の想像力をかき立てる」といった声が上がっています。時代背景を深く理解することで、街の風景が一層輝いて見えるという事実は、現代を生きる私たちにとっても非常に刺激的です。当時の若者が抱いた「恋の都」への憧れが、ここには詰まっています。
公共空間を彩る印象の軌跡
堂本印象の縁は、単なる絵本にとどまりません。戦災で焼失した四天王寺五重塔の壁画をはじめ、大阪の公共施設に多くの遺産を残しました。ドラマのロケ地としても名高い輸出繊維会館のモザイク画や、大阪カテドラル聖マリア大聖堂の祭壇画など、1960年代を通じて彼の芸術は大阪の街に息づいてきました。
本書に収められた、心斎橋筋の呉服店や夕陽丘、清水谷といった情景は、当時の青春そのものです。私は、これほどまでに都市の個性を愛した芸術家の眼差しに深い敬意を抱きます。皆さんも機会があれば、大正の風情が漂うこの絵本を手に取り、かつての大阪が持っていた甘美なロマンに思いを馳せてみてはいかがでしょうか。そこには、現在の我々が忘れかけている、街を慈しむ心が描かれているはずです。
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