ひとり出版社「夏葉社」島田潤一郎さんに学ぶ!働き方改革と本への情熱が紡ぐ「誰かにとって必要な1冊」の作り方

出版不況が叫ばれる現代において、独自の存在感を放つ出版社が東京都武蔵野市にあります。その名は「夏葉社」。驚くべきことに、企画から編集、営業、さらには発送業務に至るまで、すべての行程を島田潤一郎さんという男性がたった一人で切り盛りされているのです。彼が生み出すのは、決して万人受けを狙ったベストセラーではありません。どこかの誰かが心の底から必要としている、そんな深く温かい文学作品や、歴史の波に埋もれてしまった名作を現代に復刊させ、読者の元へ届けています。

この型破りなスタイルに対し、SNS上では「本への深い愛情が伝わってくる」「大量消費の時代だからこそ、こうした温かみのある1冊に出会いたい」といった感動の声が数多く寄せられているようです。島田さんが一人で活動する道を選んだ背景には、チームで動くことへの苦手意識がありました。自分ひとりの責任であれば、もし失敗したとしても心の底から納得できるからだといいます。大学を卒業してから27歳まで、作家を夢見ながら無職の期間を過ごした島田さんは、その後会社員も経験したものの、組織の枠には馴染めませんでした。

31歳で行った転職活動では50社連続不採用という厳しい現実に直面しますが、この挫折が大きな転機となります。当時、小規模ながらも個性が光るインディペンデントな出版社が次々と誕生し、素晴らしい書籍を世に送り出している光景を目にしました。それに強い刺激を受けた島田さんは、編集経験が皆無だったにもかかわらず、起業に必要なのは知識ではなく気合であると一念発起し、2009年9月にたった一人の出版社を創業されたのです。

創業からこれまでに35冊もの本を世に送り出してきました。アメリカの作家であるバーナード・マラマッドの短編集『レンブラントの帽子』に代表される文学作品の復刊を軸に据え、地道な活動を続けています。現在では紀伊國屋書店新宿本店をはじめ、全国で約150店舗の書店が夏葉社の本を常時取り扱っており、時には特設フェアが組まれるほどの信頼を獲得しているのです。業績は決して順風満帆ではなく、赤字と黒字を繰り返す不安定な道のりですが、10年間で7勝3敗という確かな足跡を残しています。

島田さんの働き方は、従来の編集者が抱く長時間労働のイメージを覆すほど健康的です。勤務時間は午前10時から午後4時までと決め、金曜日と土曜日を休みに設定しています。デザインと校閲という専門スキルを要する部分のみを外部のプロフェッショナルに委託し、それ以外のすべての業務を自身の手で完結させているのです。ここでいう「校閲」とは、原稿に誤字脱字がないか、事実関係に誤りがないかを厳密にチェックする専門的な作業のことを指し、本のクオリティを担保する上で欠かせない工程となっています。

事務所に積み上がった数千冊の在庫を前に、梱包や発送の作業をしながら新しい本の企画を練る時間が、島田さんにとっての至福の時です。お届け先の名前を1枚ずつ手書きしていると、不思議と次のアイデアが湧き出てくると語ります。午後5時には帰宅して家族との時間を最優先にするその姿勢からは、仕事とプライベートを美しく調和させる、真のワークライフバランスのあり方が見えてくるでしょう。誰かの人生に寄り添う本は、こうした健やかな日常から誕生しているのです。

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