日本の電子政府はなぜ「不便」なのか?世界に遅れる行政デジタル化の壁と未来への処方箋

現代において、国家の真の競争力を左右するのは、軍事力や資本だけではありません。実は「行政のデジタル化」こそが、国力を測る重要な指標となっています。世界中で巨大IT企業が覇権を争い、国家間での技術競争が激化する中、日本政府の立ち位置が注目されています。日本でも2019年12月19日に行政手続きを原則として電子化する「デジタルファースト法」が施行されましたが、世界との差は依然として存在します。

国際連合が実施している「電子政府ランキング」の2018年調査において、日本は193の国と地域の中で10位という結果でした。首位のデンマークや2位のオーストラリア、3位の韓国などに後塵を拝しています。この調査は通信環境やオンラインサービス、人材の質を総合評価したものですが、日本はインフラ面で高く評価されている一方で、個人のスキルを指す「人的資源」の指標が足を引っ張る形となっています。

また、早稲田大学が実施した「世界電子政府進捗度ランキング」の2018年度調査では、日本は7位でした。この調査を分析すると、日本が誇る意外な強みが見えてきます。それは政府の推進体制です。特に、組織の垣根を越えてIT戦略を統括する最高情報責任者である「政府CIO(Chief Information Officer)」の配置状況を評価する部門では、日本は見事に世界1位を獲得しました。

しかし、組織体制や通信網といった土台が強固であるにもかかわらず、日本は「使い手側の視点」において評価を大きく落としています。オンライン手続きの利便性は12位にとどまり、ネットを通じた住民の意見反映を示す「電子参加」も11位でした。専門家からも、世界のトレンドは利用者の満足度を最優先する方向へ動いているものの、日本はその視点が欠けているという手厳しい指摘がなされています。

スポンサーリンク

徹底的な「ユーザー目線」で先行する海外の成功事例

世界トップを走るデジタル先進国は、いずれも圧倒的な利便性を誇ります。首位のデンマークでは、1つの市民ポータルサイトにアクセスするだけで、引越しから子育て、年金にいたるまでのあらゆる申請がオンラインで完結します。さらに、匿名化された個人の医療データを民間企業が活用できる仕組みを構築した結果、欧州最大級の医療産業の拠点までもが誕生しました。

「電子立国」として名高いエストニアでは、2000年代から住民登録や納税など、ほぼすべての行政サービスが24時間いつでもネット上で完結する環境が整えられています。国民IDカードが運転免許証や健康保険証の役割も兼ねており、確定申告は数分で終了します。ネット投票の割合が4割を超える国と比較すると、日本の現状が利用者目線から遠く離れていることは否定できません。

日本の行政手続きは約5万8000種類におよびますが、2018年3月末時点での電子化率は、わずか1割程度にとどまっています。身近な住民票の異動や免許証の住所変更、パスポートの申請などは、今でも役所の窓口へ出向く必要があります。ネット申請ができる場合であっても、結局は紙の添付書類を郵送や持参で求められるケースが多く、完全なデジタル完結には至っていません。

こうした日本の現状に対し、SNS上では「形だけのオンライン申請はいらない」「有給休暇を取って平日の役所に並ぶ時間が本当にもったいない」といった、市民の切実な不満や怒りの声が数多く噴出しています。スマートフォンで買い物を済ませることが当たり前になった現代において、行政サービスの利便性の低さは、もはや看過できないレベルに達していると言えるでしょう。

日本が「最先端」へ脱皮するために必要なデザイン力

日本政府が「世界最先端の電子政府」をスローガンに掲げてから約20年が経過したものの、その理想はまだ実現していません。この現状を打破するために打ち出されたデジタルファースト法では、ITで手続きを完結させる「デジタルファースト」、同じ情報の再提出を不要にする「ワンスオンリー」、1回で手続きを済ませる「ワンストップ」という3つの原則が掲げられました。

国もようやく弱点を認識し始めましたが、課題はその実行スピードにあります。先進国が企画から導入までを迅速に行うのに対し、日本はシステム開発に時間をかけすぎる傾向があります。その結果、せっかく稼働した頃には技術が時代遅れになっていたり、社会のニーズとズレていたりする悲劇が珍しくありません。形骸化したシステムづくりから脱却できるかが、今後の大きな分かれ道です。

エストニアでは、行政のデジタル化によって削減されたコストが、国内総生産(GDP)の2%に相当すると言われています。単にこれまで紙で行っていた作業を画面上の入力に置き換えるだけでは、本当のデジタル化とは呼べません。重要なのは、住民が何に困っているかを徹底的に突き止め、最適な体験を設計する「デザイン力」であり、国全体の仕組みを根本から再構築する強い意志です。

編集部としては、日本のデジタル化を阻んでいる最大の原因は、技術の不足ではなく「前例踏襲」に縛られた行政の姿勢にあると考えます。民間企業が顧客満足度を競い合うように、政府も「国民を顧客として満足させる」というマインドに変革すべきです。このデジタルファースト法の施行を契機として、日本の行政が真に優しく、美しいサービスへと生まれ変わることを強く期待します。

コメント

タイトルとURLをコピーしました