世界経済を揺るがし続けてきた米中の関税合戦に、新たな動きが見られました。2020年2月14日、両国による「第1段階の合意」が正式に発効され、2018年7月の対立勃発以来、初めて追加関税が引き下げられたのです。しかし、この歴史的な節目であるにもかかわらず、手放しでは喜べない緊迫した空気が漂っています。現在、猛威を振るっている新型肺炎の感染拡大が、合意の要である中国の輸入拡大計画に大きな影を落としているからです。
SNS上では「関税引き下げは一歩前進だけど、肺炎の影響が大きすぎて相殺されそう」「今後の世界経済がどうなるのか本当に不安」といった、先行きを懸念する声が数多く上がっています。さらに中国の国営テレビでは、当日のニュースが新型肺炎の話題で埋め尽くされ、協定発効の事実すら報道されませんでした。国民の関心も完全にウイルスの脅威へと向いており、1ヶ月前に交わされた約束は早くも忘れ去られようとしているのが現状です。
今回の合意における最大の柱は、中国が2020年から2021年にかけて、米国からの輸入額をサービス分野も含めて計2000億ドル上乗せするという計画です。もともと専門家の間では実現を疑問視する声が強かったものの、新型肺炎の直撃によってその達成はさらに絶望的視されています。2020年2月7日の電話協議において、習近平国家主席はトランプ米大統領に計画の実行を約束したものの、足元の輸入拡大が極めて困難である事実は認めざるを得ませんでした。
現在の中国国内を見渡すと、多くの企業が正常な業務を再開できていません。楽観的な予測であっても、工場がフル稼働に回復するのは2020年3月中旬以降になると見込まれています。仮にウイルスの終息が夏までずれ込むような事態になれば、2020年分の輸入目標を達成することは不可能でしょう。中国政府は2020年1月24日から2月11日までに膨大な医療物資を輸入しており、通関手続きもこれらが最優先され、他の一般貨物は後回しにされています。
ここで注目すべきは、米国が感染拡大を防ぐために中国人の入国拒否に踏み切った点です。これにより、中国の対米サービス輸入の約6割を占める「旅行」の需要激減は避けられません。このような状況下では、知的財産権の保護や共同開発といった高度なテーマを扱う「第2段階の合意」に向けた次の協議など、いつ始められるかの目処すら立たないのが実情です。人やモノの往来が制限される中で、貿易交渉は完全に足止めを食らっています。
今回の関税引き下げがもたらす恩恵も、実際には極めて限定的なものに留まります。半減の対象となったのは企業間で取引される電子部品や化学素材などの「中間財」ですが、これは輸入全体のわずか11%に過ぎません。残りの82%には依然として25%という超高関税が課せられたままであり、米中が互いに高い関税を掛け合う異常事態は終わりが見えないのです。この程度の引き下げでは、冷え込んだ市場を温めるには力不足だと言わざるを得ません。
この混乱を機に、世界中へ部品を供給する調達網である「サプライチェーン」の再構築が急速に進んでいます。例えばプリント基板の2019年の対中輸入は前年比で激減した一方、台湾やフィリピンからの輸入が急増しました。個人的な見解として、今回の新型肺炎は単なる健康被害に留まらず、企業の脱・中国依存を決定づけるトリガーになったと感じます。リスク分散のために生産拠点を移す動きは、もはや関税の増減だけで止められるものではありません。
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