「銀行の窓口に行っても、売りたい商品を押し売りされるだけ」。そんな不信感を抱いた経験はありませんか?金融業界にデジタル化の波が押し寄せる中、2019年5月28日、りそなホールディングスの東和浩社長(当時)が日本経済新聞の取材で明かした戦略は、一見すると時代に逆行するかのような、しかし極めて本質的な一手でした。同年7月に企業内大学「りそなアカデミー」を設立し、徹底的な「人づくり」に乗り出すと発表したのです。
このアカデミーの目的は、単なる資格取得ではありません。独立系金融アドバイザー(IFA)に匹敵する、高度なコンサルティング能力を持つ社員を組織的に育成することにあります。半年間で正味30日という濃密な研修プログラムを用意し、2022年度末までに約300人の精鋭を育てる計画でした。当時、IT企業による金融参入が相次ぐ中、東社長は「最も時間のかかる人づくりで差別化を図る」と明言。デジタルには真似できない、人間ならではの「相談力」で勝負に出たのです。
りそな銀行は他行に先駆け、2年前から販売ノルマを廃止し、顧客からの預かり資産残高を評価基準にする改革を行っていました。さらに2019年度からは、短期的な成果だけでなく、将来的な関係構築を重視する中長期評価の比率を大幅に高めています。SNS上ではこのニュースに対し、「ノルマ廃止は英断」「相談できる相手がいるのは安心」といった好意的な反応が見られた一方で、「本当に現場の意識が変わるのか?」という冷静な視点も投げかけられていました。
背景にあるのは、長引く低金利による銀行経営の厳しさです。利ざや(貸出金利と預金金利の差額による利益)が縮小する中、東社長は「リテール(個人向け業務)は小売業のような厳格なコスト管理が必要」と断言しました。大型店舗を減らして少人数店舗を増やすなどの効率化を進める一方で、そこで浮いた人材を「オムニアドバイザー」と呼ばれるコンサル営業へシフトさせる。スマホアプリの利便性と、対面相談の信頼感を両立させる「ハイブリッド戦略」です。
コラムニストとしての私見ですが、どれだけAIやフィンテックが進化しても、相続や資産承継といった人生の機微に触れる悩みは、結局のところ「人」にしか解決できない部分が大きいものです。効率化一辺倒ではなく、泥臭い「信頼関係」に投資するというりそなの決断は、デジタル全盛の今だからこそ、逆に際立つ価値を持つのではないでしょうか。2019年に蒔かれたこの種が、今の銀行サービスにどう花開いているか、改めて注目したいところです。
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